新しい技術が勃興すると全く新しい事実が分かってきます。生命科学者のある著作を読んでいて驚くべき“発見”があったことを知りました。英雄の遺伝的足跡についてです。著者は、東北大学名誉教授で細胞生物学や分子生物が専門の帯刀益夫氏。書名は、フランスの画家ゴーギャンの代表作と同じ『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』(早川書房、2010年発行)。

 著者は専門知識を生かして膨大な数の生命科学や考古学などの分野の研究論文を読み込んだ上で、私たちの遺伝子の中にある、生物としての人間の歴史を明らかにしていきます。その過程の中で英雄の遺伝子的な足跡についても紹介しているのです。

 ミトコンドリア・イブという言葉を聞いたことがあるでしょうか。約25年前に遺伝学者たちが、細胞内のミトコンドリアの遺伝子(これは女性だけに遺伝します)を分析した結果、私たちは、約23万年前にアフリカに生きていたただ1人の女性につながっていることを明らかにしました。ミトコンドリア・イブとはこの女性のことです。