ODMの取り組みが活性化、新規参入の挑戦を受けて立てるか

 ミラーレス・カメラの普及はカメラ・メーカーにとって、一眼レフ・カメラ分野でシェアを分け合う2強のキヤノンとニコンに挑む新しい競争軸を立ち上げる好機である。設計の自由度の高さを生かした思い切った機能を投入しやすいからだ。

 実際、ミラーレス・カメラを投入したメーカーは「超小型のレンズ交換式」や「超高級ミラーレス」など、小型軽量化を推し進めるだけではなく、画質や機能面で一眼レフ・カメラを上回ることをうたう機種を投入している。Samsung社のAndroid搭載ミラーレス・カメラは、そうした動きの一つだ。カメラ技術のけん引役は今後、一眼レフ・カメラからミラーレス・カメラに移っていくだろう。

写真上は、キヤノンが2013年4月に発売した一眼レフ・カメラ「EOS Kiss X7」。本体の寸法が従来機種よりも格段に小さいことが特徴だ。外形寸法は、116.8mm×90.7mm×69.4mm。写真下は、同社が2012年秋に発売したミラーレス・カメラ「EOS M」。外形寸法は、108.6mm×66.5mm×32.3mm。

 もちろん、2強も指をくわえて新市場を見ているわけではない。2011年秋にはニコンが、2012年秋にはキヤノンがミラーレス・カメラ分野に参入した。大手カメラ・メーカーによる製品が出そろったことで、さらなる市場の活性化は続くとの見方は強い。世界でも今後2~3年で、ミラーレス機の出荷台数が一眼レフ・カメラを抜くとの予測もある。

 ただし、日本市場で先行するミラーレス旋風は、まだ世界的な流れとして本格化してはいないことも事実である。メーカー各社はアジアではミラーレス機で一定数のユーザーを獲得しているようだが、まだ欧米では一眼レフの人気が高い状況だ。キヤノンのように「ミラーレス並みに小型の一眼レフ」を発売し、二方面を両にらみする戦略のメーカーもある。

 それでも、「いずれはミラーレスにシフトしていく」との意見が多いことは確かだ。ミラーレス・カメラの市場拡大は、コンパクト・カメラで苦戦する日本のカメラ・メーカーにとって希望の光でもある。だが、同時に別の角度から新しい悩みをもたらす。

 それは、光学系の主要機構部を省いた構造によって、レンズ交換式カメラ分野への参入障壁がグッと下がることである。ミラーボックスやOVFは、光学部品の成形や光軸合わせで職人技の微調整が必要になる。これが参入を難しくする大きな理由の一つだった。

 大きな参入障壁を失ったミラーレス・カメラでは、東アジアのODM(設計や製造の受託)を中心とする多くの企業の参入が本格化することになりそうだ。実際、コンパクト・カメラの世界市場がしぼんでいることを背景に、カメラ関連を得意とするODM企業はミラーレス・カメラヘの積極投資を真剣に考えている。既に受注に動いているODM企業もあるようだ。

 まだ交換レンズの設計や、レンズをカメラに取り付けるマウント部の構成では、日本メーカーの技術や特許、ノウハウに一日の長がある。しかし、そのアドバンテージがどこまで続くかは未知数だ。冒頭で紹介したSamsung社のように「あえてカメラをスマホ化する」という別の競争軸で、主戦場であるミラーレス・カメラのシェア獲得を目指す取り組みも出てきた。

 今後増える可能性が高いODMを活用した新規参入の動向や、それに伴う価格低下、そしてコンパクト・カメラと同様のスマホとの競合、さらに、日本のカメラ女子のような新しいユーザー層を世界でいかに発掘するか。国内のカメラ・メーカーは、ミラーレスをキッカケに始まるレンズ交換式のカメラ戦国時代を生き抜く手腕が問われている。