意を決し, KDDIに再び乗り込んだ
一足飛びにそこまで行けなくても,通信料金をできるだけ抑えるには,通信時間ではなくデータの量に応じて課金するパケット通信サービスを利用するのが得策。となれば,NTTドコモの「DoPa」か,KDDIの「cdmaOne」に候補は絞られる。このうちDoPaは最大データ伝送速度が28.8kビット/秒。これに対してcdmaOneは64kビット/秒と速い上,2002年には144kビット/秒の第3世代携帯電話サービス「CDMA2000 1x」,さらに2003年には2.4Mビット/秒の「CDMA2000 1x EV―DO」が登場すると聞いている。「本命はKDDI」。畑野は腹を決めた。
だが,KDDIの大株主は,あのトヨタ。果たして,こちらの話をまともに聞いてくれるのか…。畑野は意を決し, KDDIに再び乗り込んだ。
「パイオニアの畑野と申します」
あれっ,1年前に出てきた人とは違うなあ。部署も別みたいだし。まずは,いつものプレゼンで様子を見てみるか――。畑野は,相手から手渡された名刺をテーブルに置きながら思った。「商品企画部次長・サービス企画グループリーダー 原口英之」。名刺にはこう書かれていた。
「早速なんですが,今日はKDDIさんにご相談がありまして」
「はい」
「実は,今こういうことを考えているんですが…」
畑野は1年前とそっくり同じ説明を始める。もう何度も繰り返し行っているプレゼン。慣れもあり,これまでにないほど早く説明を終えてしまった。相手は理解できただろうか。不安を感じながら,まずは尋ねてみる。
「あのー。どうでしょうか」