意を決し, KDDIに再び乗り込んだ

 一足飛びにそこまで行けなくても,通信料金をできるだけ抑えるには,通信時間ではなくデータの量に応じて課金するパケット通信サービスを利用するのが得策。となれば,NTTドコモの「DoPa」か,KDDIの「cdmaOne」に候補は絞られる。このうちDoPaは最大データ伝送速度が28.8kビット/秒。これに対してcdmaOneは64kビット/秒と速い上,2002年には144kビット/秒の第3世代携帯電話サービス「CDMA2000 1x」,さらに2003年には2.4Mビット/秒の「CDMA2000 1x EV―DO」が登場すると聞いている。「本命はKDDI」。畑野は腹を決めた。

 だが,KDDIの大株主は,あのトヨタ。果たして,こちらの話をまともに聞いてくれるのか…。畑野は意を決し, KDDIに再び乗り込んだ。

原口英之(はらぐち・ひでゆき)氏
原口英之(はらぐち・ひでゆき)氏
1986年1月,日本高速通信(現KDDI)に入社。専用線サービスや電話サービスの立ち上げに携わる。1986年10月,移動体事業準備室にて日本移動通信(IDO)の立ち上げに従事する。1987年3月,IDOの設立と同時に,同社の企画部に出向。1989年3月,同社に転籍。2002年6月からソリューション事業企画本部 ソリューション商品開発部 モバイルソリューション開発グループリーダー 次長に就いた。(写真:柳生貴也)

 「パイオニアの畑野と申します」

 あれっ,1年前に出てきた人とは違うなあ。部署も別みたいだし。まずは,いつものプレゼンで様子を見てみるか――。畑野は,相手から手渡された名刺をテーブルに置きながら思った。「商品企画部次長・サービス企画グループリーダー 原口英之」。名刺にはこう書かれていた。

 「早速なんですが,今日はKDDIさんにご相談がありまして」

 「はい」

 「実は,今こういうことを考えているんですが…」

 畑野は1年前とそっくり同じ説明を始める。もう何度も繰り返し行っているプレゼン。慣れもあり,これまでにないほど早く説明を終えてしまった。相手は理解できただろうか。不安を感じながら,まずは尋ねてみる。

 「あのー。どうでしょうか」