インクリメントPの清水敏彦を訪ねたパイオニアの畑野一良は、
即決で事業への協力を取り付けた。
清水にとっても、畑野の超廉価カーナビの提案は渡りに船だったのだ。
地図データの開発でインクリメントPの技術者たちが動き始めた。
最初の検証結果をみた畑野は言い放った。

 「このままじゃ,とてもじゃないけど使えない。新しい地図フォーマットを作るしかないね。中野君たちで作って」

 インクリメントPの中野年章と岡村淳一が作った,携帯電話機を介してサーバからノート・パソコンに地図をダウンロードするシミュレーション。これを見た畑野一良は,こう言い置くと部屋を出ていった。

 残された中野と岡村は,まだ動いているシミュレーションをぼんやり見つめていた。

 「まぁ,これじゃあ,畑野さんがああ言うのも無理はないな」

 「んー,そうですね」

 「よし,いっちょ頑張ってみるか」

 「ええ」

中野年章氏と岡村淳一氏
中野年章氏と岡村淳一氏
インクリメントPの中野氏(写真左)と岡村氏(同右)は,通信カーナビ向けの地図フォーマットの開発に取り組んだ。(写真:柳生貴也)

 その後,中野と岡村を中心とした数名のグループが,通信カーナビ向けの新しい地図フォーマットの開発に取り組み始める。「iフォーマット」。まだ影も形もないものの,名前だけはすぐ決まった。