5万円カーナビの構想について
カンパニーのプレジデントへのプレゼンをこなした
パイオニアの畑野一郎。
ハードルを一つクリアした彼は、10年来の付き合いである
インクリメントPの清水敏彦を訪ねた。
前置きが長い畑野の様子に清水は、
今日の相談が重要案件であることを感じ取っていた。

「面白いと思うよ」

ハード・ディスク装置(HDD)を搭載したカーナビ
ハード・ディスク装置(HDD)を搭載したカーナビ
パイオニアが2001年6月に発売した「カロッツェリア HDD[サイバーナビ]」は,記録媒体にHDDを採用したことが特徴である。HDDの記録容量は10Gバイトで,地図データのほかにCDからの音楽データも記録できる。価格はVICS受信機と7インチ型ワイド・モニタを搭載したCD-ROM装置内蔵タイプで31万5000円。

 一気に説明を終えた畑野は,清水の顔色をうかがいながら恐る恐る尋ねる。

 「だいたいこんな感じなんですが…。どうでしょうかねえ,清水さん」

 清水の口が動く。

 「面白いと思うよ」

 「えっ,本当ですか」

 「うん,面白いんじゃない?」

 畑野から思わず笑みがこぼれた。うれしかった。すごくうれしかった。清水がアイデアを認めてくれた。自分は間違っていなかったのだ。

 勢いに乗った畑野は,間髪置かず続ける。

 「それでですねえ,ぜひ清水さんのところに協力していただきたいんですが」

 「いいよ。地図データを送る技術のところだろ」

 「そうです,そうです」

 「社運をかけて,っていうとちょっと大げさかもしれないけど,ウチにとっても大きな話になりそうな気がする」

 「はい。うまくいけば,面白いことができるかと…」

 「そんな感じだね。じゃあ,ウチのエンジニアで優秀なのがいるから,彼らを投入するよ」

 「あ,ありがとうございます」

 即決だった。清水は畑野の話を聞きながら直感した。これはモノになりそうだ,と。単に内容が面白いだけではない。何を隠そう,清水自身も畑野とほぼ同じことを考えていたのだ。