「で,今日の話なんですが」
しばし,お互いの現況報告をした後,何気に畑野がスーツの胸ポケットに片手を入れた。清水は思わずニヤけた。畑野はいつもこうだ。清水に何か説明するとき,必ずA4判の用紙1枚を取り出すのだ。そこには,自分の考えをまとめた手書きの図が既に書いてある。
「で,今日の話なんですが」
「はい,はい」
「実は今,こういうことを考えているんですけど…」
「なに,なに?」
「えっーと,ですねぇ」
畑野は持ってきたA4判用紙を清水に見せながら,プレジデントたちにプレゼンテーションした内容をごく簡単に説明する。5万円程度の超廉価カーナビを開発したいこと,その商品イメージは「iモード」対応携帯電話機を上下左右に大きく引き伸ばし,カーナビの寸法まで拡大したものであること,その実現には多くの処理をサーバ側で行うシン・クライアント技術が必要なこと,地図データなどのコンテンツをサーバからカーナビへどんどん送り込むこと…。
次々と繰り出される畑野の話を,清水はジーッと聞いていた。
(文中敬称略)