「意外なほど,ネガティブな意見は出なかったなあ…」
畑野一良は,取りあえずホッとする。
各カンパニーのプレジデントなどを前に行ったプレゼンテーション。
超廉価カーナビの必要性や実現方法,新しいビジネス・モデルなど
畑野のアイデアはどうやら受け入れられたようだった。
だが,あまりにもすんなり行き過ぎたことが
逆に不安の念を呼び起こしていた。
畑野の足はある場所へと向かう。
あの人に聞いてみるしかない
「君の発表内容は,現行のカーナビ事業と結び付いていないようにみえる。もっと現実的なことを考えた方がいいんじゃないのか」
プレゼンテーション終了後の質疑応答の時に飛び出したコメント。これが畑野一良の頭に妙にこびり付いて離れない。
考えてみると,確かに一理ある。皆に自分の構想を披露したはいいが,本当に超廉価カーナビを開発できるのか,ビジネス・モデルは間違っていないのか。もしかしたら,もっと手堅いことを目指した方が本当にいいのかもしれない…。熱く語った20分間のプレゼンテーションを終え,冷静ないつもの自分へ徐々に戻るほど,畑野の不安は大きく膨らんでいった。
「あっ,もしもし。あのー,畑野ですけど…」
「おう,どうもどうも。元気?」
「えー,まあ。ボチボチです」
「そう」
「そちらはどうですか」
「こっちもボチボチかな…。で,何か?」
「はい。実は,またちょっと聞いて頂きたい話がありまして…」
「うん,うん」
「今,いいですかねぇ,そちらに伺っても。時間はありますか」
「えーっと。30分くらいなら,何とか大丈夫かな」
「ぜひぜひお願いします」
「なら,いつもの場所でいい?」
「分かりました,すぐに伺います。いつもの場所ですね。じゃあ,よろしくお願いします」
「了解」