GPS搭載カーナビやDVDカーナビで常に先頭を走り続けてきた
パイオニアの畑野一良。
HDDカーナビの製品化にメドが立ったころ、
取材に来た専門誌の記者が彼に難題を吹っかけた。
「5万円のカーナビを作れませんか」
この言葉が畑野の技術者魂に火をつけた。

中期計画の発表会で

 それから数カ月後の1999年晩秋。社内の各カンパニーのプレジデントや事業企画部長など幹部が数十名集まり,カンパニーごとに中期計画を発表する日が来た。この場で,畑野はある構想を発表する時間を20分ほどもらっていた。

 当時,パイオニアでは「2005年ビジョン」として「ネットワーク・ライフの構築」を目標に掲げていた。畑野は,カーナビがネットワークを使いながら新しい価値をつくり出すためにはどうあるべきかに知恵を絞った。その成果をここで披露し,開発に向けた正式なゴーサインをもらおうというのだ。

 畑野は例の取材の日以来,方々に考えを巡らせていた。その結果,これからカーナビ市場をさらに活性化させるためには,超廉価カーナビの製品化が必要との結論に至る。折しも社内のキーワードになったネットワーク技術を,カーナビの低価格化に活用できるんじゃないか。畑野はそう思い付いた。

 超廉価カーナビが市場に与えるインパクトや具体的な実現手法を練り上げ,15枚のプレゼンテーション資料にしたためた。果たしてどういった反応が返ってくるのか。期待半分,不安半分…。

 いよいよ畑野に順番が回ってきた。

 「モーバイルエンタテインメントカンパニー 事業企画部 ナビゲーション・グループの畑野でございます。よろしくお願いいたします」

 軽く会釈してから顔を上げると,プレジデントたちの視線が一斉に畑野に注がれる。気楽に話そうと思ってはいたものの,いざ壇上に立つと身が引き締まる。同時にプロジェクタの画面が切り替わり,白いスクリーンに畑野のプレゼン資料が映し出された。

 タイトルは「TeleNAVIプラットフォーム構想―ナビの普及拡大のための新たなビジネスモデル―」。まずタイトルの意味を簡単に説明する。Teleとは自動車向け情報通信技術であるテレマティクスのほか,テレビジョン,テレホンなどを意味する。NAVIは,もちろんナビゲーションだ。

「5万円カーナビ」は作れるか
「5万円カーナビ」は作れるか
カーナビをさらに普及させるべく,多くのメーカーが超廉価カーナビの必要性を認識していた。