パイオニアが2002年11月に発売した「Air Navi AVIC―T1」。
この製品には従来のカーナビの常識を覆すシカケが施されていた。
最大の特徴はデータ通信モジュールを内蔵したこと。
その代わり、DVD装置やHDDなどは付いていない。
さらにはカーナビ本体と通信料などを一体化した料金体系の採用、
そして分割による支払い方法の導入…。
すべては、1990年に同社でカーナビ第1号機の開発に携わった
ある技術者の発想から始まった。
新分野を切り開いた熱い技術者魂を紹介しよう。
通信機能内蔵カーナビの開発
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語
目次
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消えてゆく仲間たち
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(最終話)
矢継ぎ早に飛ぶ質問に,畑野は1つひとつ丁寧に答えていく。ひと通り質疑応答が終わると,多くの記者が実機の展示スペースへと散っていった。今度は松本や福田らが実機に触れながら,記者たちに再度説明を繰り返す。
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いきなりの指名
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第11話)
通信カーナビの製品化まであと1年を切った2002年初頭。パイオニアの前に救世主が現れた。アルプス電気がデータ通信モジュールを開発,製造してくれることが決まったのだ。なかなか話に乗ってこない国内メーカーへの依頼はあきらめ反応の良い韓国メーカーと正式に契約する直前の出来事だった。これを契機にハードウエア…
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大どんでん返し
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第10話)
年が明けて,2002年1月。目標とする製品化時期まで1年を切った。それでも,開発部や企画部が顔をそろえた会議は膠着状態が続いていた。
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青ざめた韓国
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第9話)
やむなく講じた窮余の策だった。パイオニアのやる気を公に知らせることで部品メーカーの懐柔を試みた。現実は甘くなかった。何よりも時間が欲しい。パイオニアでカーナビ技術陣の取りまとめ役だった、本橋実の願いは切実だった。製品の早期投入か,あくまで商品性にこだわるべきか…。揺れる気持ちの中で、本橋は早期投入を…
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コンパニオンに語らせて
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第8話)
汗のにじんだ額に,深いしわが刻まれていく。本橋には技術者としてのプライドがあった。「じっくりと腰を据え,自分たちが納得できる最高の製品を開発したい」。
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せめぎ合う開発部と企画部
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第7話)
2001年6月,パイオニアの畑野一良は再びKDDIに乗り込む。畑野が思い描く通信カーナビを実現するためには何としても通信事業者の協力が必須だった。1年前に訪問した時は,畑野の話に乗ってくれなかった。ところが初めて出会ったKDDIの担当者,原口英之はすぐに快諾する。原口も畑野と同じようなアイデアを持っ…
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これじゃあ、使い物にならない
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第6話)
2001年6月――。開発着手からほぼ1年が経過した。中野や岡村らの地道な取り組みは,ついに新しい地図フォーマット「iフォーマット」の原型を完成に導いた。同じく6月,パイオニアはハード・ディスク装置(HDD)を搭載した日本初のカーナビ「カロッツェリアHDD[サイバーナビ]」の発売を迎える。
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高くついたドライブ
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第5話)
2000年春,パイオニアの畑野一良の命を受けたインクリメントPの中野年章と岡村淳一は,通信カーナビ向けの新しい地図フォーマットの開発に取り組む。これと並行して,畑野は通信事業者3社に乗り込んだ。畑野が思い描く通信カーナビを実現するには通信事業者の協力が不可欠だからだ。だが,どこも返事が芳しくない。
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社運をかけて
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第4話)
パイオニアが2001年6月に発売した「カロッツェリア HDD[サイバーナビ]」は,記録媒体にHDDを採用したことが特徴である。HDDの記録容量は10Gバイトで,地図データのほかにCDからの音楽データも記録できる。価格はVICS受信機と7インチ型ワイド・モニタを搭載したCD-ROM装置内蔵タイプで31…
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いつもの部屋で、いつものように
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第3話)
意外なほど,ネガティブな意見は出なかったなあ…」。畑野一良は,取りあえずホッとする。各カンパニーのプレジデントなどを前に行ったプレゼンテーション。超廉価カーナビの必要性や実現方法,新しいビジネス・モデルなど畑野のアイデアはどうやら受け入れられたようだった。だが,あまりにもすんなり行き過ぎたことが逆に…
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何とか作れませんかねえ
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第2話)
それから数カ月後の1999年晩秋。社内の各カンパニーのプレジデントや事業企画部長など幹部が数十名集まり,カンパニーごとに中期計画を発表する日が来た。この場で,畑野はある構想を発表する時間を20分ほどもらっていた。
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ご、5万円ですか?
新分野を切り開いた熱い技術者魂の物語(第1話)
パイオニアが2002年11月に発売したカーナビ「Air Navi AVIC―T1」。この製品には従来のカーナビの常識を覆すシカケが施されている。最大の特徴はデータ通信モジュールを内蔵したこと。その代わり,DVD装置やハード・ディスク装置(HDD)などは付いていない。