車載Ethernetに関わる仕様策定・普及促進団体「OPEN(One-Pair Ether-Net)Alliance SIG」のメンバーが急増しています。2013年6月時点でOPEN Alliance SIGに参加する企業やグループの数は140超。約1年前は50ほどでしたから、3倍近く増えた計算になります。2013年6月には、米Caterpillar社やPSA Peugeot Citroenグループ、トヨタ自動車、Volkswagenグループ、スウェーデンVolvo社などが新たに加わりました。

 ここにきて、OPEN Alliance SIGが急拡大している背景には、自動車業界が車載Ethernetを利用しようと舵を切り始めたことがあります。Ethernetは、既に2008年ごろから自己故障診断(OBD)用途で実用化済みです。今後は、リアルタイム性の向上やフェイルセーフの確保、コスト削減、データ伝送速度の向上などを実現しながら、適用範囲はさらに広がっていくと予想されています。今後は車載AV機器の映像伝送(情報)系をはじめ、ボディ系や制御系、安全系、情報系といった各系統をまとめるゲートウエイ同士を接続するバックボーン・ネットワークにまで、適用範囲を広げる可能性があります。

 Ethernetが車載用途でも導入される主な理由には、高速な通信速度と拡張性の高さの二つがあります。一般的なEthernetであれば、電気信号の利用で1Gビット/秒まで、光信号の利用で10Gビット/秒まで高速化できます。拡張性に関しては、通信機器や民生機器で多用されるTCP/IPに対応する際に、外部の機器やネットワーク・サービスとの連携が容易です。

 自動車メーカーの中で、車載Ethernetの利用に積極的なのが、ドイツBMW社です。同社は、2013年9月発売の自動車のカメラ・システムに車載Ethernetを利用する予定です。

 OPEN Alliance SIGは、米Broadcom社の車載Ethernet向け伝送技術「BroadR-Reach」を基にした物理層の適用推進や相互接続性の確保などを目的に、同社がBMW社などと共に2011年11月に立ち上げた団体です。前述のBMW社の自動車には、BroadR-Reachが適用されているようです。

 BroadR-Reachの特徴は、車載用途で求められる数十mの伝送距離において、UTP1対で100Mビット/秒を実現できる点です。シールドが不要になるだけでなく、100Mビット/秒のデータ伝送速度でありながら、一般的な「100Base-TX」の信号線2対よりも配線を削減できます。

 BroadR-Reachに対抗する伝送技術に取り組む企業があります。それが、OBD用途向け物理層LSIを手掛けるMarvell社やMicrel社です。両社も、カメラ・システムや情報系への適用拡大を目指して研究開発に注力しています。

 BroadR-Reachをはじめ、車載Ethernetの物理層LSI製品のデータ伝送速度は最大で100Mビット/秒。現在は、用途拡大に向けて1Gビット/秒の仕様策定が始まっています。民生機器で使われる1000Base-Tでは、4対の信号線で1Gビット/秒を実現していますが、この信号線数のまま自動車に適用するのは、コストや実装スペースの面で難しいとされています。

 そこで、4対よりも少ない信号線で1Gビット/秒を実現するための技術仕様について、IEEE802.3のグループである「RTPGE Study Group」で議論されています。物理層LSIを手掛けるBroadcom社やNXP社、Marvell社、Micrel社が参加する他、大手自動車メーカーも加わっています。

 Ethernetを車載用途に適用するには、物理層の他、データリンク層の改善によるリアルタイム性の向上とフェイルセーフの確保も欠かせません。その議論の場になっているのが、米Cisco社や米Intel社などが2009年に立ち上げた「AVnu Alliance」です。同団体は、高品質のオーディオ・ビジュアル環境を家庭だけでなく、自動車内でも構築するために「IEEE802.1 Audio/Video Bridging(Ethernet AVB)」の採用を推進しています。ここに自動車業界が着目し、車載用途に必要なリアルタイム性やフェイルセーフに関して議論を進めています。現在は、次世代仕様の策定を議論中です。

 今回紹介した車載Ethernetの動向はごく一部。より詳細な動向に関心がある方は、7月11~12日に開催のセミナーにぜひご参加ください。例えば自動車メーカーではBMW社やトヨタ自動車、Jaguar & Land Rover社、Hyundai Motor社から、電装品メーカーでは、デンソーやContinental社、Harman社からご講演いただきます。2日間で合計15枠の講演を予定しております。