ところが、「3Dプリンタは製造業の実用に堪えない」と、こき下ろす人物が登場した。EMS(電子機器受託生産サービス)世界最大手、台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕のトップ、郭台銘・董事長だ。

 郭氏が3Dプリンタ批判の舞台に選んだのは、台湾の夕刊紙『聯合晩報』(2013年6月24日付)。

 郭氏は、「3Dプリンタを『第3次の産業革命』と表現するのは、笑い話の類いに過ぎない」と酷評。「当社自身、30年前から3Dプリントの技術を使っているが、商用の大量生産には使えず、商用の価値は低い。巷間(こうかん)で言われる第3次の産業革命にはなり得ない」との考えを示した。

 さらに、「例えば、3Dプリンタで電話機の形は造れる。ただ、出来上がったものは、眺めることができるだけで、電話としての実用はできない」「3Dプリンタは電子部品を中に組み込む製造ができないため、電子製品の量産はできない」などと、欠点を列挙。その上で、「3Dプリンタは1、2個のサンプルを生産するのがやっとだ。仮に3Dプリンタが本当に第3次産業革命を起こしたならば、私は自分の名前を逆さまに書いて見せる」と言い放った。日本風に言うなら、「逆立ちして自分の名前を書いてみせてやろう」というところか。いずれにせよ、EMSのツールとして、3Dプリンタを評価もしていなければ、将来的に取り入れるつもりもないことを強調してみせたのだ。

 フォックスコンは米Apple社のスマートフォン「iPhone」をピーク時で1日当たり20万台生産するという、大量生産の王者のような企業。これに対して3Dプリンタは現状、大量生産には向かないというのは、郭氏のみならず、一般的な認識でもある。それを郭氏がことさら強調して見せた真意はどこにあるのか。EMS業界では、「2013年6月26日に開催を控えた株主総会でエンジン全開にするためのウォーミングアップとして吠えてみたというところではないか」と、それほど深刻な意味はなかったのではないかと指摘する向きもある。

 株主総会といえば、フォックスコンからの出資交渉が頓挫したシャープも6月25日に株主総会を開催した。同日付の日経新聞は、経営不振について幹部らの責任を追及する発言が株主らから相次いだことなどで、過去最長の2時間23分というロングラン総会になったと伝えている。

 一方、台湾の経済紙『工商時報』(2013年6月27日付)によると、フォックスコンの株主総会は6時間半に及んだ。さらに総会後、事業部の分社化についての説明会を3時間実施。トータルでは9時間半にも及んだ。その間、郭氏は経営方針を説明したり、質疑応答に一つ一つ丁寧に応えるなど、しゃべり通しだったという。さらに、昼休みには個人投資家たちの弁当を自ら手配したり、個人投資家らと抱き合って記念撮影に応じたりのサービスぶり。それでも疲れたそぶりは見せず、超人ぶりを発揮していたということだ。