前回は、進化型すり合わせ開発の進め方として、「V字プロセスとRFLP〔R:要求(Requirement)→F:機能(Function)→L:論理(Logical)→P:物理(Physical)〕」の観点で、システムを段階的に詳細化して捉えていく全体の流れを説明しました。今回は、上記プロセスにおいて最初に実施することになる「要求整理」に的を絞り、その重要性と具体的な考え方、進め方について説明します。

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 著名なソフトウエア開発者のワインバーグは、彼の著書『要求仕様の探検学-設計に先立つ品質の作り込み』の中で、「人々が何を望んでいるのか分からなければ、開発プロセスがどんなに厳密に、賢明に、効率的に行われようと、彼らを満足させることはできない」と述べています。

 この言葉の通り、「製品開発の入り口で、製品への要求理解が不十分」だと、その後の開発がいかに正しく実行されたとしても、出来上がってくる製品は不十分なもの(正しくないもの)になります。また、要求理解の不十分さは、往々にしてV字右側の「製品が物となり具現化した段階」まで気づくことができず、大規模な手戻りを引き起こしてしまいます。

 開発初期に要求を正しく理解することは、「重要性は広く理解されているが、十分には行われていない」というのが実態ではないでしょうか。私が過去担当した二輪自動車のパワートレーン開発では、事前収集した顧客アンケート調査結果を基に、「リニアな加速感が求められている」「キビキビした走りも重要だ」という会話が少しなされたものの、すぐに「最大トルクは**以上欲しい」や「動力伝達効率は**くらい必要」といった技術の各論に焦点が移り、それぞれの目標値が設定されていきました。

 結果、設定した「最大トルク目標」や「動力伝達効率目標」についてはパワートレーン単体で達成したものの、「リニアな加速感」や「キビキビした走り」については、実車試験でNGとなり、開発後段で厳しい適合作業(すり合わせ調整)を強いられることになりました。

 また、仕向け地の1つであるアジアA国からは、実車試験時に、「リニアな加速感」や「キビキビした走り」よりも、「段差を乗り越える際の振動の軽減(日本の数倍の高さの段差が街中の道路に存在)」や、「道路冠水時の走行性能(車体の半分が水に浸かるような冠水も多々)」の方が重要という声が多く挙がり、こちらも厳しい納期の中で対応せざるを得なくなりました(最終的には、納期を優先して品質目標を下げて出荷)。