(図)合成クモ糸「QMONOS」で作ったドレス
(図)合成クモ糸「QMONOS」で作ったドレス
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遺伝子の専門家でも他分野は…

 「え~っ、そ、そこ?」。聞いた瞬間はその意外さに唖然としましたが、ほどなくして深く納得しました。「分業化」と「効率」という2つのキーワードが、頭の中で工場の生産ラインと結び付いたからです。クモ糸合成技術の開発と工場の生産ライン。一見すると両者は全く異なる分野のようですが(実際、そうですけど)、「可能な限りモノやコトをスムーズに前に進めたい」という理想を描く点では共通しています。まずはもう少し、関山氏の回答をご紹介しましょう。

 クモ糸の合成には、幾つもの手段が考えられますが、同社が採用した方法は「クモ糸の主成分であるタンパク質(フィブロイン)を微生物に作らせる」というものでした。ただし、微生物を使ってクモ糸を作るには、複数の工程を経る必要がありました。すなわち、(1)フィブロインを生み出せる遺伝子を合成する、(2)その遺伝子を導入した微生物を培養し、フィブロインを作らせる、(3)出来たフィブロインを精製してポリマを作る、(4)ポリマを液体に溶解する、(5)紡糸する、という5工程です(詳細はぜひ2013年7月号の日経ものづくりをお読みください)。

 問題は、これらの工程に必要な複数の研究分野が互いにほとんど関連性のない点にありました。例えば、遺伝子合成技術の専門家なら、(1)の遺伝子合成工程の研究は進められても、(3)のポリマ精製工程についてはチンプンカンプン。そこで海外の研究チームは、各分野の専門家で小さなチームを作り、複数のチームが共同でクモ糸合成技術の確立を目指すという「分業体制」を採用したわけです。