20年、30年後も必要とされる、と自信を持って言い切れる仕事とは、果たしてどれだけあるのでしょうか。このように、大学や企業で学んだ技術のスキルで、一生、食べることは難しくなっているのです。

 結局、大学や企業でまず身につけるべきことは、「学び方」ではないでしょうか。どのような技術を扱うかは、技術の変化に応じて、フレキシブルに変えていくしかない。また、個別の技術にとらわれない、より汎用のスキル、例えば、MOTを習得することも必要でしょう。

 実際、私はこの20年間、必要に迫られて、分野を変えてきました。大学、大学院では物理工学科で量子工学を学び、企業ではLSIの回路設計に従事。そして、MBAを学びに行った後に、マーケティングやプロジェクト・マネージメントの仕事をしました。今では、新メモリを使いこなす、データベースなどのソフトウエアの研究を行っています。

 ある分野で、ゼロから学んで世界トップレベルにまで達することは至難の業です。ただし、どの分野であっても、基礎から応用まで学ぶことで、他の分野でも転用できる「学び方」は身につくのです。私自身、この「学ぶ力」を応用することで、この20年、分野を少しずつ変えながら、サバイブしてきました。

 こうして、時代の変化に応じて、柔軟にスキルを変えていかなければいけない時代では、「好きなことをやりましょう」というのも、必ずしも良い場合ばかりではありません。確かに、好きなことをやった方が、没頭できますから、スキルの習得も速いでしょうし、自分も成長するでしょう。

 ただ、先ほども述べたように、仕事自体が、日本から国外、例えば中国やインドに移ってしまうこともある。「好きだから、何が何でも、ある技術をやりたい」というのは、現実では、難しいことも多いでしょう。

 むしろ、「何が何でも好きなことをやりたい」と固執する人よりも、「とりあえず、いま必要とされる仕事をしよう」という人の方が、結果として、好きなことを仕事にできている気がします。

 まずは、受け入れられてから、やりたいことをやる。そのためにも、大学に入学した学生の皆さんは、まずは、「学び方」をしっかり身につけてもらえればと思います。