まず、90年代、私たちが20代の時に、金融バブルがはじけ、盤石だと思われていた、大手の金融機関がバタバタと倒れ、企業の買収や合併が相次ぎました。長銀(日本長期信用銀行)や興銀(日本興業銀行)が消滅することで、多くの友人が、外資系企業などに移っていきました。三木谷浩史さんが興銀を辞め、楽天の前身となるエム・ディー・エムを起業されたのも、その頃ですね。

 一方、90年代は、日本のメーカーは国際競争力があり、金融機関ほどは経営が悪化しませんでした。メーカーの20代、30代の技術者で転職した人たちは、会社の経営が悪化したというより、新しいチャンスを求めたり、スキルアップが目的だったと思います。

 こうして、人数にすると、1/3くらいの人たちが、自ら会社を辞めていきました。新しいチャンスを求めて転職する人は、一度ではなく、何度か転職をしているケースが多いような気がします。2回、転職している私もその一人ですね。

 さて、2000年代に入ってから、30-40代で増えたのは、自分の意図とは関係なく、転職せざるを得ない人たち。事業が不振のため、他の会社に売却されたり、別の企業になったり。気づいたら、違う会社になっていた、というケースです。

 そして、2010年代になり、私の同期は40代になりました。現在増えているのが、電機メーカーの事業不振で、リストラで退職を余儀なくされるケースです。こうして、今から数年後には、就職した会社にずっといる人は、ほんのわずかになりそうです。

 会社を変わる理由は人それぞれですが、歴史がある大手のメーカーであっても、終身雇用は、幻想だったのです。

 これだけ変化が激しいのに、それでも、「安定」や「終身雇用」を求め、「大企業に入社すれば、会社が雇用を保証してくれる」と思っている学生や若手社員は今でもいます。しかし、20年前から、すでに、終身雇用は幻想だったわけですから、現在の若い世代のみなさんにとっては、ほとんどあり得ないと考えたほうが良いでしょう。

 そして、幻想だったのは、終身雇用だけではありません。技術者が専門とする分野が生涯続く、ということも幻想だと思います。企業が存続したとしても、自分が身につけた知識やスキルが機械やITに置き換えられたり、海外の他の国に移転したりすることも頻繁に起こるようになりました。

 「技術の変化は速いから、同じ技術で生涯稼ぐのは難しい」と言われると、「それは電機とかITの話で、自分の分野は違う」と思う人もいるでしょう。しかし、90年代、経済バブル崩壊で金融業界が傾いた時に、電機産業の人は「自分たちは安泰だ」と言っていたのです。