ソニーやパナソニック、シャープといった、日本を代表する電機メーカーが苦境に陥り、従業員のリストラも余儀なくされています。その一方、大学の入学試験では、むしろ、工学部の人気が復活しています。リーマンショック後は、理系が就職しやすいことから、「文低理高」のトレンドが鮮明になっているのです。

 確かに、工学部で学ぶ知識は、幅広い分野で使われ、「つぶしがきく」ことは間違いありません。例えば、電子工学科で学んだ知識は、たとえ、家電メーカーが苦境に陥ったとしても、車、精密機械、社会インフラといった、日本がまだ強みを持つ産業でも必要とされます。実際に、卒業生が就職先に困るわけではありません。

 しかし、もし、工学部に入学する学生のみなさんが、工学部は「就職に強く」はともかく、「企業に終身雇用してもらえる」、「一生稼げるスキルが学べる」と思ったら、それは少々危ういと感じます。企業や事業も、個人のスキルも一生続くものを探すのは、本当に難しい。

 私は大学院を卒業してから20年が経ちますが、大学を同期で卒業した友人たちの身の振り方をみると、終身雇用で会社に勤めあげる人は、ほんの一部です。私が就職した時には、同期の友人たちのほとんどが、いわゆる大手企業、メーカーや金融機関、商社などに就職していきました。

 その時は、日本のメーカーは世界の中で抜群に競争力がありました。また、日本メーカーの間での転職も難しく、自然と、自分が就職した会社に一生勤めるもの、という認識でした。つまり、ほとんどの人は、終身雇用のつもりで、就職をしていたと思います。

 それが、20年後の今では、最初に就職した会社に勤め続けている人は、同期の中でも1/3もいるかどうか。結果として、就職した時と、その後の展開は、全く違ったものになりました。