テレビの「小米」スマホ

 スーパーテレビの発表会資料と映像を見て、筆者は「小米」というブランドのスマートフォン(「小米」というスマートフォン)をすぐ思い出した。小米スマホは、それまでは携帯電話やスマホの開発/製造/販売に全く関わっていない小さなベンチャー企業が創り出したものだ。

 ユーザー参加型の開発スタイルを採用し、機種を1~2個に絞り、ネット予約により大量に製品を受注し、生産はOEM企業に依頼する。販促もインターネットを存分に活用する。そうした伝統的な携帯電話やスマホのメーカーと一線を画する手法により、非常に安価でそこそこの品質の製品が造り、高機能と低価格のスマホの提供を実現した。

 スーパーテレビは、小米の手法をテレビ業界へ展開したといえる。しかし、テレビとスマホでは購入層が違う。スマホを購入するのは、新しいものに敏感な10代、20代の若者が中心であり、スマホの買い替え周期は短い。多少の品質問題があっても我慢できるのだ。だが、大型テレビを買うのは、30代や40代以降の人々が多く、ブランドや品質を重視する。

 テレビはスマホと違い、ブランドの育成に時間がかかる。伝統的なテレビメーカーと比べて、価格に優位性がある一方で、楽視網は販売力や保守サービスの点ではかなり見劣りがする。どのぐらい信頼されるか、どのぐらい資金力/運営力で製造と販売を維持・発展させられるかが、今後の成否を左右するといえよう。

テレビへのゲーム機収益モデル

 楽視網のスーパーテレビが小米のスマホと違っているのは、持っている膨大なコンテンツを活用して、コンテンツ主導の新たなテレビ収益モデルを構築しようとしていることだ。これは、ゲーム機の収益モデルと同じであり、ハードで市場を取り、付加サービス、つまりコンテンツで儲けるという手法といえる。しかし、ゲーム機でこの収益モデルが成功したのは、ゲーム機のハード開発と販売、およびソフトの開発と販売で構成されるエコシステム(企業間連携)を、ゲーム機メーカーがコントロールできるからだ。楽視網は、多数のコンテンツを持っているが、楽視網しかできないほどのものでもない。そのため、その成功の可能性に疑問を感じるのだ。

 さらに、ハードで儲けるのではなく、「コンテンツ視聴料金+広告+アプリ」という、いわゆるインターネット・サービスで儲けようというビジネスモデルには、その成立に不可欠な大前提がある。テレビがインターネットと接続され、ネットコンテンツを利用できる環境がある程度の規模まで広がることだ。そうならないと、企業から広告をもらえない。実際、中国ではインターネットとつながるテレビはかなり少ない。テレビでインターネットのコンテンツを視聴する文化はまだ浸透していないのだ。

 加えて、中国のテレビメーカーがスーパーテレビに屈しているとも思わない。テレビメーカーもさまざまな手段でコンテンツ・プロバイダーとの連携にトライしている。そして、テレビとスマホの連携も模索している。例えば、日本の無料通信サービス「LINE」と似ている中国版の「WeChat」との連携などだ。