日経エレクトロニクス2013年6月24日号の特集「有機EL、新天地へ進め」で、有機ELディスプレイや有機EL照明技術の現状と将来性について記事をまとめました。特に有機ELディスプレイについてはごく最近になって、驚くほど明るい市場予測も出てきています。記事ではその背景と、開拓すべき市場の方向性を解説しています。

一つの技術革新が、有機ELディスプレイのの大型化とフレキシブル化に大きく貢献

 急激に市場予測が明るくなってきた最大の要因は、ディスプレイについては、画素の駆動回路、つまりバックプレーンに用いるTFT技術の革新があったことです。これまでの有機ELは、5型程度までの小型ディスプレイは量産されていても、それをなかなか大型化できませんでした。2009年ごろには東芝や韓国LG Electronics社などが30型前後の有機ELテレビを発売する、という話もありましたが、結局は実現せずに終わっています。

 有機ELディスプレイの大型化を難しくしていた技術的課題はいくつかありますが、理由として最も大きいのは、これまで小型ディスプレイで主流の技術だった低温多結晶Si(LTPS)TFT技術に、大型化すると急激に歩留まりが低下するという課題があったことです。これが最近になって、酸化物半導体であるInGaZnO TFTという技術が実用化水準に近づいてきたことで、バックプレーンの大型化への障壁が消えつつあります。

 そして実際、有機ELディスプレイの大型化ラッシュが始まりました。韓国LG Electronics社を筆頭に55~56型は当たり前の大きさになり、台湾AU Optronics社は65型の有機ELテレビも作ってしまいました。Samsung Electronics社の55型有機ELテレビを除くと、ほとんどの大型有機ELディスプレイがバックプレーンにInGaZnO TFT、または類似の技術を採用しています。

 InGaZnO TFTにはもう一つ大きなメリットがあります。製造プロセスで必要な温度が低く、フレキシブルなディスプレイを作りやすい、という点です。既に、InGaZnO TFTを用いた14.7型という比較的大型の有機ディスプレイ・シートも試作されています。

 InGaZnO TFTは、液晶ディスプレイの大型化にも使われ始めており、有機ELディスプレイが単純に大型化するだけでは現実の市場で液晶ディスプレイと勝負になりません。しかし、フレキシブル化という方向性での研究開発は、有機ELディスプレイが液晶ディスプレイを凌駕しています。有機ELで大型かつフレキシブルなディスプレイを実現できれば、これまでの大型化と高精細化という狭い競争軸から外れることができ、有機EL技術を覆っている閉塞感が一気に解消される可能性があるのです。冒頭で触れた調査会社のレポートはそうした流れを想定しています。

 もちろん、大型化やフレキシブル化の実現に必要な技術は、InGaZnO TFTだけではありません。現時点の大型有機ELテレビには、消費電力など深刻な技術的課題もいくつかあります。そうした技術群のそれぞれの進化も含め、詳しくは特集記事を読んでいただければ幸いです。