インドの優秀な人材に日本のものづくりの神髄を伝えようという国際協力機構(JICA)の研修プログラム「VLFM(Visionary Leader For Manufacturing)」が、2013年春に終了しました。プログラム最終年度の日本での研修は私も一端を取材させてもらいました(Tech-On!関連記事)。6年近く続いた同プログラムでは、毎年多くのインド人のエンジニアらが現地および日本で研修。指導に当たった筑波大学名誉教授の司馬正次氏が、プログラムを通じて多くのインド企業の改革を支援しました。2013年7月にVLFMの成果報告会があるというので、それに先だって司馬氏に代表的な改革例をうかがってきました。

 VLFMの狙いの1つは、既存の設備で受注品を生産するだけのものづくりから、製品のデザインから開発、販売、サプライチェーン、周辺の社会にまで視野を広げて事業競争力のあるものづくりへの変革を目指すことにあります。司馬氏らは前者を「Small M」、後者を「Big M」と呼び、Big Mへの変革を促しており、研修生には、強くこれを訴えていました。

 例えば、VLFMを通じて改革を図った工場の1つに、冷蔵庫を生産するGodrej & Boyce社のShirwal工場があります。VLFMの研修に参加した1人のエンジニアが工場改革を牽引。工場内に空きスペースを確保してラインを倍増させるとともに、工程を見直して生産効率を引き上げました。さらに、VMI(Vendor Managed Inventory)の導入などによって在庫回転日数の大幅な削減などを実現したといいます。

塗装段取り65分から12分へ

 具体的には、VLFMプログラムの研修で司馬氏の薫陶を受けた同工場の工場長が、リーダーシップを発揮して改革を進めました。彼が最初に着手したのは、ゴミ捨て場の改善だったそうです。それまでは、ゴミ捨て場はその名の通り、要らないものを乱雑に放置してあるだけの場所でした。しかしその彼は、使えるもの/使えないものを区分けし、整然と置くことでリサイクル基地へと変貌させました。続いて、工場内に温室を造ったり、食堂を建てたりして従業員が働きやすい環境を整えたといいます。「まずは、従業員のやる気を引き出し改革を進めやすくするため」(司馬氏)です。

 従業員の意識を高めたところで、工程の改善に着手しました。最初はボトルネックだった塗装工程の段取り替えの短縮に取り組みました。作業の様子をビデオで撮影し、工程を詳細に記録。内段取りと外段取りを分析して、それぞれの短縮のためのカイゼン活動を展開した結果、従来は65分かかっていた段取り替え時間を、最終的に12分にまで短縮できました。加えて、真空成形装置を新たに導入して工程能力を高めました。

 VMIによるジャスト・イン・タイム方式を導入して、原材料の在庫削減にも取り組みました。併せて、段取り替えのカイゼンで仕掛かり在庫の削減も実現しています。この他、レイアウトの見直しと5Sの実施で省スペース化を図り、従来2本だった生産ラインを4本に倍増させたのです。VLFMプログラムを通じて開発した低所得者向けの簡易冷蔵庫「Chottu cool」の生産ラインのスペースも確保しました。

 こうした現場の改革は、「日本の工場における典型的な取り組みと何ら変わらない」と司馬氏は言います。Shirwal工場は同社のモデル工場となり、同様の取り組みを他工場にも展開しているそうです。

 なお、冒頭に述べたVLFMのこれまでの成果を発表するセミナーは、2013年7月9日にJICAで開催されます(詳しくはこちら)。上記の工場改革を進めたかつての研修生らが、成果の内容を発表するとのことです。