前回まで、産業用ネットワークの物理層とデータリンク層に注目して、説明をしてきました。今回から、産業用ネットワークとアプリケーション層との関係を取り上げます。

 はじめに、プロセス・オートメーション(PA)の通信のアプリケーションについて、説明します。プロセス・オートメーション業界が産業用ネットワークの導入を検討したとき、ファクトリ・オートメーション(FA)とは異なるアプローチを提案しています。

通信とファンクション・ブロック

 FAにおいては、産業用ネットワーク(当初はフィールドバス)は従来のアナログ信号配線の代替として使われました。ところが、PAではデジタル通信を工場に導入するときに、せっかくデジタル技術を使うなら単にアナログ配線の置き換えだけでは十分でないという考えがありました。

 ややこしく言うと、デジタル通信のメリットを現場機器と制御機器というハード対ハードの通信としてではなく、ソフト的なファンクション・ブロック対ファンクション・ブロックのデータの流れという形で捉えようという考え方です。

 具体的には図1をご覧ください。

図1●ファンクション・ブロックで通信するとコントローラが消える?
AIはアナログ入力ファンクション・ブロック、PIDは制御ファンクション・ブロック、AOはアナログ出力ファンクション・ブロックのこと。
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 従来のPAにおける信号の流れは以下の通りになります。

1.現場の測定器はアナログ信号を4m~20mAのデータとしてコントローラの入力部に送る
2.コントローラの入力部を経由して、アナログ入力ファンクション・ブロック(AI)がこの信号を受け取り、警報のチェックなどをした後、信号を制御ファンクション・ブロック(PID)に送る
3.制御ファンクション・ブロックでは、決められた(例えば、PID制御)アルゴリズムで計算を行った後、計算した値をアナログ出力ファンクション・ブロック(AO)に送る
4.アナログ出力ファンクション・ブロックは、出力演算後、送られてきたデジタル信号を出力部に送る
5.出力部はアナログの4m~20mAの信号として、操作器(例えば、コントロールバルブ)に送る

 FAのように4m~20mAのデータ信号をデジタルに置き換える場合は、図1の左のデータ信号の部分がフィールドバスによる通信になります。しかし、ファンクション・ブロック対ファンクション・ブロックの通信ということを考えると、AIの機能、PID制御の機能、AOの機能は、どのハード機器の中に存在していてもよいわけです。

 現場機器もCPUを搭載して、機能を増していますので、現場機器の中にAIの機能、PID制御の機能、AOの機能を入れて、これらのファンクション・ブロック間の通信をフィールドバスで行えば、(大胆ですが)コントローラが不要になります。つまり、制御のために制御専用機のコントローラを置くのではなく、現場機器の中に分散して機能を置き、機能間を通信でつなごうという考え方です。