日本ではエコカーが社会に定着し、売れ行きランキングの上位を占めるようになりました。筆者も昨年、ハイブリッド車に乗り換えたのですが、その驚異的な燃費にはいまだに感心させられます。エコカーが社会の中心を占める存在になったことは、素晴らしいことだと思います。

 電気のように、従来とは異なる動力を使う乗り物として、いち早く社会に登場したのは「電動アシスト自転車」でした。もっと広く普及すると思ったのですが、エコカーほどのブームは引き起こさなかった。自動車は「財産」だが、自転車は「消耗品」。ひょっとしたら、そんな意識の違いがあるのかもしれません。

 自動車と自転車の中間的存在であるバイクでも、複数のメーカーから「電動スクーター」が発売されています。ただし、これも街で走っているところをあまり見かけません。スクーターはアジアや日本ではそこかしこで見かける乗り物ですから、電動スクーターはもっと普及していもおかしくはないのですが。そこには、自転車と同様の理由が存在するのかもしれません。

 筆者は最近、電動スクーターに乗り、その乗り心地を確かめる機会がありました(図1)。公道ではない場所での試乗でしたので、時速50kmものスピードを出すことができ、ガソリン・タイプのスクーターと遜色のない加速を味わうことができました。

図1●国産の電動バイクは精巧な造り
図1●国産の電動バイクは精巧な造り

 こうした電動バイクも、海外製品が輸入され、販売され始めています。中には、日本メーカー製の半分以下の値段で買えるものもあるようです。ここでは、12万円ほどで購入できる「JEVO」という中国製の電動バイクを紹介しましょう(図2)。12万円といえば、一般的なスクーターよりも安い。にもかかわらず、出力600Wのインホイール・モーターを動力とし、フル充電での走行距離が45kmという優れた仕様を備えています。盗難防止アラーム機能なども標準で装備されている。

図2●中国製の電動バイク「JEVO」
図2●中国製の電動バイク「JEVO」

 筆者はこのJEVOを分解してみました。作業は非常に楽。大半の部品はプラス・ドライバーで取り外すことができ、数名で手分けすれば30分でフレームだけの状態にできました。プラス・ドライバーだけでほぼ完全に分解できてしまうバイク。さながら家電製品と同じです。

 一方、図1に示した国内製の電動バイクの分解は一苦労でした。多種類のネジが使われているため、六角レンチや星型ドライバー、プラスおよびマイナスのドライバーなどを駆使して、先の中国製の場合と同じ人数で1時間30分を要しました。キメの細かい作りや、専用工具がないと分解できない点などは、家電製品とは明らかに異質でした。

 「海外製電動バイク=家電、国内製電動バイク=バイクそのもの」。これが分解に携わったメンバーの感想です。両者の違いは構造面だけにとどまりません。図3に、JEVOに搭載された電池と電源部を示します。まず鉛電池が2個、加えて家電と同様のDCチャージャーが内蔵されています。配線も家電製品そのもの。そして配線の多くはクリップで括られているだけでした。バイクというよりも普及価格帯のテレビに似た印象です。

 これに対して国内製の電動バイクは、専用の配線が使われていたり、キメの細かい処理が施されていたりした、非常に美しい造りをしています。電池やインホイール・モーター、パネル、フレームなど、どれをとっても海外製とは別次元です。どちらの電動バイクが欲しいか?と聞かれたら、答えは自明でしょう。しかし、値段の差を聞けば答えは変わるかもしれません。

図3●JEVOの電池と電源部
図3●JEVOの電池と電源部

 先に、「自転車=消耗品、自動車=財産」といういささか荒っぽい分類をしました。その根拠は、日本中どこにでも放置自転車が存在し、そのさまを見るにつけて自転車がいかに消耗品として捉えられているかが実感できるからです。筆者の自宅にも普段乗っていない自転車が2台放置してあります。もし、ユーザーがバイクを一種の消耗品だと捉えているとすれば、バイクらしいバイクではない「家電」でも構わない。見えない部分にまで細心の作り込みをしたバイクと、見えない部分は家電製品と共通化したバイク。そのどちらもが「曲がる・止まる・走る」の条件を満たしたものであることに変わりはありません。どちらが良いか、最後は消費者が決めることです。

 こうした差は、半導体やエレクトロニクス製品にも各所に見られます。図4に、中国Hisense社の50型テレビの背面パネルを外した配線留め部の様子を示しました。このテレビは2012年夏に日本で10万円を切る価格で発売された製品です。テレビや光ディスク装置は多くの場合、電源基板と信号処理基板、パネル制御基板という3種類の基板で構成されており、それらは多数の配線で結ばれて絶縁テープや耐久テープで留められています。ところが驚くべきことに、Hisense社の50型テレビでは絶縁テープや耐久テープの代わりに、セロファン・テープが使われていました。

 ここに、究極のローコスト志向を垣間見る思いがします。かつて多くのテレビや光ディスク装置を分解してきた筆者でさえ、それまでセロファン・テープで留められた製品を見たことは一度もありませんでした。しかもこれは新興地域ではなく日本で一般に販売され、当時話題にもなった製品の話なのです。

図4●中国メーカー製テレビ「Hisense Anyview」の内部にセロファン・テープ
図4●中国メーカー製テレビ「Hisense Anyview」の内部にセロファン・テープ

 しかし、考えてみれば、「セロファン・テープ」が特に問題を起こすようなことはない。配線をどのような素材で留めようが、テレビの性能には関係ありません。米Apple社の故Steve Jobs氏は、見えないところにもこだわることで有名で、それを示す言葉を残してもいます。例えば、「偉大な職人は、見えなくともキャビネットの後ろにチャチな木材を使ったりはしない」というもの。外からは見えない、内部の美しさにまで徹底してこだわったという逸話を裏付けるセリフです。そしてこうした完全主義こそが、Apple社の製品のデザインの価値を高めたとも言われます。しかしその対極ともいえるような、「見えないところは一般家電の汎用部品を使いまわし、セロファン・テープさえいとわない」というモノたちも、販売店には並べられているという事実は認識しておくべきでしょう。