ユーザーは機能で製品を選んでいない

 「シンプルであることを徹底した」。伊勢氏は、これが成功につながった大きな理由だと話しています。アプリ版ボケては、パソコン向けのWebサービスとは別物と考えて開発を進めたそうです。

 その軸として存在した開発哲学は、「機能を導入するかどうか迷ったら、採用しない」ということ。「一般的には、ほとんどの開発では、迷ったら逆に機能を追加しておくと思います。でも、それは機能の差異化でモノが売れていた時代の発想です。今のユーザーは機能で製品やサービスを選んでいません」。伊勢氏は、こう指摘しています。

 実際、伊勢氏らが当初考えたアプリの企画案と、実際に公開したアプリを比べても、そのUIなどはほとんど同じです。若干、デザイン面の差異はありますが、開発途中で追加機能に迷いがあった場合は採用しないという哲学が貫かれているからこその結果でしょう。

企画段階でのUI案(左)と、実際に開発したUI(右)。

 とにかくシンプルなユーザー体験を目標にアプリを開発する。その考え方は、迷わず機能を削り落とす判断につながっています。

 例えば、最初に公開したアプリ版ボケてには写真やボケの投稿機能がありません。パソコン版サービスで投稿された写真とボケを閲覧できるだけです。パソコン向けサービスの大きな特徴は「ユーザー投稿型であること」ですから、サービスの根幹に関わる機能を実装しなかったことになります。

 決して手抜きではありません。ここには、開発者たちの決断があります。ユーザーがアプリの操作に慣れてきた頃に、バージョン・アップの一環として投稿機能を後から追加すると決めたわけです。

 まずは、パソコン向けのWebサービスで積み上げた「コンテンツの面白さ」を最大限に生かしたアプリにしようという判断が見えます。そのために、コンテンツの閲覧機能をサクサクと使えるようにする。その部分の工夫に力を入れていると言えるでしょう。

 スマートフォンのタッチパネル操作の場合、指で触れる表示画面中のボタンそのものがアプリの機能に直結します。ボタンの配置を含めて、利用する人の指の動かし方、目線といった「ユーザー体験」を想像して開発を進める必要があるわけです。

 特定の入出力を実装するだけの単なる「機能」であれば、優秀なプログラマーであれば誰でも実現できるでしょう。ただ、どんなに画期的な機能を実装しても、それを使うための操作が複雑だと誰にも使ってもらえません。この点は伊勢氏も強調していました。「アプリはUIがすべてである」と。