グローバル競争を勝ち抜く戦略として,低価格の普及製品を幅広く販売する方法と,高品質かつ高性能な製品に特化するという二つの考え方がある。顧客のこだわりを徹底的に満足させることが競争力であると位置付け,後者の戦略を選択したのが,神奈川県川崎市に本社を置くカメラおよび交換レンズメーカのシグマ社である。

 一眼レフ用のカメラは趣味性の高い製品であり,もともと一部のマニアが高性能の交換レンズを求めてきた。昨今では,デジタル一眼レフのカメラの普及により,同社の主力製品である交換レンズは多くの人が関心を持つ製品となっている。どこよりも高い品質と性能を有する交換レンズの開発製造に向けて,同社ではエレキとメカのハイブリッドDRを導入して成果を上げている。

 多くの企業で海外生産分業やアウトソーシングが一般化している中,同社はあえて,ほぼ完全な一貫開発と製造体制を確立している。顧客のこだわりを満足させるため,部品や材料一つに対しても徹底的な品質追求を目指した結果,昨今のものづくりの趨勢から逆行する結果となったという。

 交換レンズの開発と製造の全ての工程を担う会津工場でメカ設計部隊を指揮する技術部長の小川真二氏は,「交換レンズを開発するために必要な全ての過程におけるノウハウが我々に蓄積され,それが,他社には真似のできない強さになっていると自負しています」と語る。一部でも他社から部品の供給を受けていたら,全体の品質を望むレベルに極めていくことが難しくなると同社は考える。品質に関しては妥協が絶対に許されないのだ。全工程を自社でコントロールすることにより,常に高いレベルの品質目標を実現可能になる。図1に同社の主力製品である交換レンズ製品の例を示す。

図1●シグマが開発する交換レンズ(SIGMA 35mm F1\.4DG HSM)
図1●シグマが開発する交換レンズ(SIGMA 35mm F1.4DG HSM)
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