三井化学の技術研修センターの一画に掲示されている事故関連の記事
三井化学の技術研修センターの一画に掲示されている事故関連の記事
屋外に展示されている事故の残骸。
屋外に展示されている事故の残骸。

 日経ものづくり2013年6月号の特集「効率化の代償」では、近年頻発していた化学プラントの重大事故を検証しながら、多くの製造業に共通する「現場のノウハウや暗黙知が失われつつあるという問題」を取り上げました。記事でも触れましたが「現場力が弱くなっている」というのは、取材先の共通した認識でした。ベテランの技術者・技能者が次第に減っていくのに加えて、効率化によって省力・省人化が進んだことで多様な経験を積む機会が失われているからです。それを補完するのが特集で取り上げた体験重視の教育というわけです。

 記事では書ききれませんでしたが、特集で取材した三井化学の技術研修センター(千葉県茂原市)では、同社の岩国大竹工場(山口県・和木町)のレゾルシン製造プラントでの事故(1人が死亡)で破裂したタンクの残骸を屋外の一角に展示していました。この他、屋内には事故を報じた新聞記事なども多数掲示されており、事故の痛みを忘れまいとする姿勢が印象的でした。

 実は同社は、「安全」という観点からは同研修センターでの教育の充実だけでなく、他にもさまざまな取り組みを行なおうとしています。その1つが組織の見直しです。具体的には、組織を小さくして課長クラスがより現場に目配りできるようにしようとしています。同社は、70~80人からなる1つの課が複数のプラントを担当していました。しかし、人数が多いため課長が全員に目配りすることが難しくなっていたといいます。そこで、課の規模を縮小し、課長が課員全員の様子を把握できるようにしようとしているのです。こうして現場を掌握することで、人的ミスを防げると期待しています。
 製造課長や係長が行っていた間接業務を可能な範囲で減らす方針も打ち出しています。課長・係長は、プラント操業の面倒をみるだけではなく、本社との折衝や業務報告、小集団活動などさまざまな付帯業務が降りかかります。例えば、現場には、緊急発注で製造銘柄を切り替えたい、こんな試作品を製造してほしいといった依頼がしばしばやってきます。そのたびに課長や係長は、そうした依頼に伴う折衝や調整に時間を取られてしまい、現場に十分目が行き届かなくなっていました。そこで、こうした折衝・調整業務は本社などで引き受けることとし、現場は操業に集中できるようにしようとしています。こうした取り組みも広い意味での「現場力の復興」と言えるでしょう。

 事故は忘れたころにやってきます。今は相次いだ事故に強い危機感を募らせている化学業界ですが、その危機感を忘れることなくもう1レベル強い現場が築かれることを期待しています。