US Ignite社のGlenn Ricart氏
Ethernet40周年記念の講演に立つBob Metcalfe氏
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 ネットワークの基本技術のEthernetは、2013年で40周年迎えた。この記念を祝うため、2013年5月22~23日、米マウンテンビュー市にある博物館Computer History Museumで「Ethernet Innovation Summit」というイベントが開催された。Ethernetの父と呼ばれるBob Metcalfe氏は、報道機関向けの基調講演で、2012年に全世界の通信事業者がEthernet上で扱う帯域は他のネットワーク技術に超えたと指摘し、「Ethernetはまだ死んでいない」と宣言した。

 業界ではEthernetのデータ伝送速度を400Gビット/秒までに拡大する取り組みが正式に動き出した(IEEEの発表資料)。先ほどのイベントでも、非営利団体米US Ignite社(同社のWebサイト)のFounder兼CTOであるGlenn Ricart氏の講演が話題を呼んだ。US Ignite社は、米連邦政府の技術機関White House Office of Science and Technology Policyや米National Science Foundation(NSF)の支援で2012年に設立された。同社は、米国内に1Gビット/秒のインターネット接続環境が一般家庭に普及する日を想定し、民間企業と協力しながら次世代のインターネット・アプリケーションの開発を支援することを目的にしている。「US Igniteのミッションは、人々の生活に重要なインパクトを呼ぶ次世代のインターネット・アプリケーションを検討する」とRicart氏がいう。このため、同社は教育、エネルギー、製造、セキュリティ、交通、および医療分野に関わるアプリケーションと、それぞれを支援する技術に注目している。

Ethernet40周年記念の講演に立つBob Metcalfe氏
US Ignite社のGlenn Ricart氏
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 US Ignite社が考えている課題の一つは、ユーザーが感じるWebサイトのレイテンシーである。インターネット接続自体の速度が加速されても、インターネットの構造によって、ユーザーが感じるWebアクセスの速さはあんまり変わらないことがある。このため、US Ignite社は「地方データセンター」といった技術案を検討している。中央的な大型データセンターとは異なり、こうしたデータセンターは小型で、地方に多数分散する。CDN(content distribution network)が扱う静的なファイルだけでなく、こうしたデータセンターは動的にWebサイトのコンテンツを処理する。既に米AOL社はこうした小型データセンターを試験運営中だという。

*CDN(content distribution network):動画などのデータ容量の大きいデジタルコンテンツをネット経由で配信するために最適化されたネットワークのこと。動画や画像などのデータのコピー(キャッシュ)を多数のサーバーに分散させておき、ユーザーは最も近いサーバーからデータを取得することで、サーバーへのアクセス集中と遅延を防いだりする。
US Ignite社が考えている仮想ネットワーク技術に役に立つ分野
US Ignite社が考えている仮想ネットワーク技術に役に立つ分野
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 Ricart氏によると、US Ignite社は特にSDN(software-defined networking))の技術が視野に入っている。例えば、各ユーザーのためにWebアプリが仮想サーバーを起動する技術を検討している。これだけでなく、SDN技術によるWebアプリは自分のニーズに適切な仮想ネットワークを割り当てる。「こうした仮想ネットワークは従来ネットワークよりも信頼性が高い」(Ricart氏)。例えば、US Ignite社は、接続されている医療装置のために個別の仮想ネットワークを割り当たることも検討している。信頼性が高いネットワーク接続を確保し、セキュリティにも重要な役割を果たすという。SDNの技術を使えば、法律によって保護する義務がある医療データを、このデータに扱う必要がある部署のネットワークとコンピュータだけが扱えるように限定できる。

*SDN(software-defined networking):ソフトウェアによって仮想的なネットワークを構成し、セキュリティやサービス品質を担保するための技術。ネットワークの物理的な制約を回避し、必要なネットワークを柔軟に構築しやすくする。

 フランスAlcatel-Lucent社からスピンアウトしたSunil Khandekar氏がCEO兼Founderを務める米Nuage Networks社は、既にこうしたネットワーク技術を、病院運営を手がけている米University of Pittsburg Medical Center社に提供している。Nuage社の技術は、医療画像データを扱うデータセンターで利用されているという。「医者が休日に利用している携帯端末も対象だ、我々の技術は、あるアプリのために要求されているセキュリティ・ポリシーと信頼性に応じる仮想的なネットワークをオンデマンドで確立できる」(Khandekar氏)。