製品を「差別化領域」と「非・差別化領域」に分け、前者はすり合わせによって技術をつくり込んでブラックボックス化し、後者はモジュール化により効率を追求する。前回は、こうした「進化型すり合わせ開発」のコンセプトをお話ししました。今回は、従来のすり合わせ開発の特徴にも触れつつ、「進化型すり合わせ開発の進め方」の全体像についてお話しします。
日本が得意なすり合わせ
日本の強みと言われている「すり合わせ開発」とは、調整や試行錯誤を繰り返してより高性能・高品質な製品をつくり込んでいく開発スタイルのことですが、ひとくちに「すり合わせ」と言っても何種類かに分けられます。例えば、エンジン⇔トランスミッションのような隣接部品間のすり合わせや、自動車⇔エンジンのような上下階層間のすり合わせ、設計⇔生産技術のような前後工程間のすり合わせなどです。
日本の製造業はこれら多様なすり合わせを縦横無尽に、いい意味で愚直に繰り返すことで、高性能で高品質な製品をつくり込み、Made in Japanブランドの地位を築いてきました。大部屋開発*1などはこのようなすり合わせを素早く行うための工夫といえます。日本人の「勤勉さ」「丁寧さ」「思いやり」「和を重んじる」などの性質も、タフな調整が必要なすり合わせ開発が上手く回っていた理由の1つにあると思います。
*1 大部屋開発 企画・設計・実験・生産技術・製造などの関係者が1つの部屋に集まり、すり合わせを繰り返しながら業務を進めるという日本の自動車業界が発祥の開発スタイルのこと。
従来型すり合わせ開発の進め方の限界
しかし昨今は、前回も述べた通り、製品の複雑化、仕事の分業化、グローバル化などが進んでいることにより、人依存の縦横無尽なすり合わせを素早く回すことが難しくなってきていると感じます。例えば、ソフトウエア制御が増えるなど製品が複雑になっているため、ハードウエア担当者とソフトウエア担当者ですり合わせすべき事項も爆発的に増え、人の勘や経験だけでは対応しきれなくなってきています。また、最近は仕事の分業化が進んでいる傾向にありますが、そうなると見落としがちな三遊間*2が増え、どこにその三遊間があるのかですら把握しきれなくなってきています。さらに、開発がグローバル化することで、日本人以外の技術者との調整も必要になり、従来のような「あうんの呼吸」は通用しなくなってきます。地理的に離れている場合は、打ち合わせの頻度はどうしても減るので、すり合わせ自体が十分できなくなります。そして、素早くすり合わせを回せなくなることで、手戻りの連続といった状況が発生してしまうのです。
*2 三遊間 野球用語。担当同士が互いに見合ってしまい、取りこぼしが発生してしまいがちな領域。
仮にそのような開発で高性能・高品質な製品ができたとしても、開発の期間と工数は膨れ上がり、技術者は疲弊しているはずです。そのような状況が続くようであれば、技術者のクリエーティビティは失われ、魅力的・画期的な製品はなかなか生まれなくなってしまうでしょう。もはや、KKD(勘と経験と度胸)だけに頼って縦横無尽に行う従来型のすり合わせ開発の進め方では、競争力を維持できない世界になってきているのです。