「いよいよ本当に苦しくなってきたんだなあ」――。先日、東芝が発表したニュース・リリースを見て、思わずそんな感想を抱きました。同社の屋台骨を支えるNANDフラッシュ・メモリ(以下、NAND)事業について、「19nm第二世代プロセスの量産を開始する」という内容です(リリース文)。「第二世代って…?」と一瞬、疑問に思いましたが、すぐに「あのことか」と事情が飲み込めました。

 NANDはあらゆる半導体デバイスの中で最も微細化が進んでおり、そのためいち早く微細化限界に直面しています。NANDメーカー各社はここ数年、「技術世代の刻みを細かくする」という方法で当面の危機をしのいできました。いわば“牛歩作戦”です。

 NANDでXnm世代という場合、Xはワード線方向とビット線方向の両方の最小加工寸法を指すのがかつては一般的でした。ところが最近では、ワード線方向とビット線方向のうちの一方だけを縮小するという、新たな技術世代の刻み方が出てきました。「19nm第二世代プロセス」という表現は、まさにそれを示しています。つまり、「19nm(第一世代プロセス)」はワード線のハーフ・ピッチが19nm、ビット線のハーフ・ピッチが26nm(関連記事)。対して「19nm第二世代プロセス」ではワード線のハーフ・ピッチは19nmで変わりませんが、ビット線のハーフ・ピッチが19.5nmに縮小されています。19nmという寸法は、現在の最先端の露光装置で、自己整合方式のダブル・パターニングと呼ばれるリソグラフィ技術を用いて解像できる最小ピッチとされています。そのギリギリのところで粘っているというのが、「19nm第2世代プロセス」の意味するところといえそうです。

 実は、東芝が2011年に「19nm(第一世代プロセス)」のNANDの量産を開始したとき、「韓国のメモリ・メーカーは、東芝の『19nm世代』を1Xnm世代(10nm台の第一世代)だとは認めていなくて、2Ynm世代(20nm台の第二世代)だとみなしている」という声を、業界関係者からしばしば耳にしました。ワード線方向とビット線方向のうちの一方のピッチが19nmに縮小されていないことは、周知の事実だったからです。もっとも、東芝は小刻みでもNANDの微細化を維持できているのに対し、韓国メーカーは「微細化を断念せざるを得ない状況に追い込まれており、近く(メモリ・セルを縦積みする)3次元NANDへ移行しようとしている」との指摘も聞こえてきます。

 DRAMにおいても、微細化はほぼ止まりつつあります。現在、20nm台の技術世代の製品が量産されていますが、「10nm台を量産するのは至難の業」(DRAMメーカー)との声が強まっています。

 微細化が行き詰っているのは、メモリだけではありません。スマートフォンやタブレット端末の心臓部を担うSoC(論理LSI)でも事情は同じ。先端世代のSoCの製造を一手に担うファウンドリー各社は現在、28nm世代まで微細化を進めており、20nm世代そして16~14nm世代へ微細化を進めようとしています。

 ところが、20nm世代と16~14nm世代は実質的に「同じ技術世代」になる見込みです。両者のメタル配線のピッチは変わらない、というのが暗黙の了解になっているからです。すなわち、16~14nm世代のプロセス技術は、「20nm世代のプロセス技術において、平面トランジスタを立体トランジスタ(FinFET)に置き換えたもの」になると見込まれています。微細化のスローダウンはここにも見て取れます。

 メモリやSoCの微細化を阻んでいるのは、技術的な難しさよりもむしろ、経済合理性の壁です。リソグラフィをはじめとするプロセス・コストの高騰により、少なくともコスト面では微細化のメリットは急速に失われつつある。この結果、NANDメーカーなどが「微細化への意欲を失いつつある」(野村證券 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクターの和田木哲哉氏)という、かつてない状況を迎えています。

 こうした危機的状況に対して、従来は「3次元化」が突破口になるとの見方が支配的でした。NANDでは3次元NAND、DRAMやSoCではTSV(Si貫通ビア)を用いた3次元実装などの手法です。しかし、これらの技術の成熟度はまだ十分には高まっていない。一言でいえば「コストが高い」のです(関連ブログ)。

 この“八方ふさがり”ともいえる状況を、半導体業界はどのように乗り越えていくのか。6月11日から京都で開催される半導体デバイス/回路技術の国際学会「VLSI Symposia 2013」では、そうした点に着目して現地から速報記事をお届けしたいと思います。そして明日からは、コンピュータ機器関連の国際見本市「COMPUTEX TAIPEI 2013」が開催されます。こちらも、スマホや超薄型パソコン、タブレット端末の市場を狙う半導体メーカーからの発表が目白押し。現地からその最新動向をレポートします。