今回紹介する書籍
題名:魔鬼成交之原一平的66条黄金法則
著者:袁梅苹
出版社:江蘇美術出版社
出版時期:2013年2月

 今月ご紹介しているのは『魔鬼成交之原一平的66条黄金法則』(日本語訳:鬼神とも取引する原一平の66の黄金ルール)。中国のビジネス書でたびたび取り上げられる「伝説のセールスマン」原一平氏。1930年に27歳で明治生命に入社、1948年に全国トップのセールスマンになって以降、15年間その座を明け渡すことはなかったという。しかし、日本でそんなに有名かというとそれほどでもない、というのが実際のところだろう。保険業界関係者ならいざ知らず、彼のことを知らない読者が大半だと思われる。しかし、筆者は中国のビジネス書に触れる際に、そこかしこで彼のエピソードを目にしてきた。

 ではなぜ彼の知名度にはこのようにギャップがあるのだろうか。

 そこで私は二つの見方を提示したい。

 一つは、「知名度の不連続性」。インターネット普及の影響もあるだろうが、今は「日本で有名になってその延長で海外でも著名に」という時代ではない。中国で蒼井そらという日本の女性タレントが大人気だ、という話を聞いたことがある人も多いだろう。そのニュースを見るまで筆者はこのタレントの名前も知らなかったし、おそらく多くの日本人にとってなじみのない名前だったろう。しかし、中国で人気を得て、逆輸入のような形で我々日本人も彼女の存在を知ることとなった。また、中国の書籍販売サイトなどを見ていると、日本ではそんなにヒットしたわけでもない日本の書籍が中国でも出版されて評判が良かったりすることがある。そう考えると、これからは「日本で成功してステップアップ=海外」ではなく、最初から中国(海外)でウケることを目指して作った商品が増えてくるのではないだろうか。そう考えると、原一平氏的現象(原氏自身は自分が中国でこのような存在になる、とは考えてもいなかっただろうが)は今後も増えてくると思われる。

 もう一つは「好まれるエピソードの違い」。先週もご紹介したが、原氏のエピソードはきわめて個性的だ。一般的な日本人には少し「やりすぎ」「奇をてらっている」ととられるのではないか。しかし、中国人にはこのようなエピソードが好まれる。原氏のエピソードがどのような経緯から中国で知られるようになったのかは不明だが、日本よりも中国で彼のエピソードが語られるようになったことからも、中国人の好む商売人像が垣間見える。創意工夫と大胆さで活路を見いだし、そしてその結果、その相手の商売が長く続いたというのも好まれる点だと思う。中国人は、単に一度きりの商売ではなく長く続く関係を築くことを美徳としているため、原氏のエピソードは実用的なだけでなく彼らの心の琴線に触れるのであろう。

 以上、「伝説のセールスマン」原一平氏の語録を基にした本書を通して、中国での方が日本国内でより有名という不思議な現象及びその主人公である原氏がなぜ中国で受けるかについて考察してきた。このような形でいろんな日本人像が中国人に触れられるのはいいことだと思うし、原氏の現象はこれからの中国市場について考える際にも何かのヒントになるのではないかと思われる。