2011年3月11日の東日本大震災以降、日本の社会は「電力問題」に直面しています。節電は震災との関係を抜きにしても重要な取り組みであり、今後普及が進むスマート・メーター、そしてスマート社会はその究極の答えの一つでしょう。ただし、スマート・メーターを本格的に普及させるためにはこの先、多くの時間と労力を払わなくてはなりません。

 節電の気運が高まっている今、スマート・メーターならぬ、「簡易な電力料金計」が市場に多く出回っています。ホームセンターや家電量販店、ネット通販などで購入でき、コンセントを介してつなぐだけという手軽さから、そこそこ売れているようです。常時電源に接続して使う家電製品、例えば録画機能付きディスク装置(HDDや光ディスク)や冷蔵庫などにこの電力料金計をつないで使っているユーザーが多いと聞きます。

 「電力料金」は社会のもっとも重要な指標の一つでしょう。電気料金を意識して家電の使い方を考えることは、家庭レベルのエコノミーやエコロジーだけでなく、これらを地球レベルで考えるキッカケになります。「日本の電気料金は海外に比べて割高」だとしばしば耳にしますが、実態はよくわかりません。筆者は長期間、米国に駐在した経験がありますから、日本の月々の電気料金が米国に比べて高いという印象は体感的に持っています。新聞や雑誌などに掲載される「日米における1kW当たりの料金差」もある程度把握している。しかしこれまでは、家庭内の電子機器一つ一つの電気料金の彼我の差を、数字として見るという経験は一度もありませんでした。

 これに対して、電力料金計が手元にあれば、ドライヤーで髪を乾かせばいくら、お湯を沸かせばいくら、といった具合に個々の電力料金を可視化できる。電力料金計の購買層として、節約に熱心なシニア層が多いという話を聞きます。節約を美徳とするシニア層には、何をすると電気代がどれだけかかるかをきちんと把握している方がいらっしゃる。数字に対するこうした意識はとても重要だと筆者は考えます。

半導体の効用は「見える化」にあり

 半導体、そしてエレクトロニクスが果たすもっとも重要な役割の一つは、「見えないものを見えるようにすること」です。かつての人間は目にすることができなかった高精細の3D映像を目に見えるようにする、死角に隠れた情報を自動車の中から見えるようにする。これらはすべて、それまで見えなかったものを見えるようにする点に価値があります。医療や宇宙関連の技術でも同じ。半導体やエレクトロニクスが果たすべき根幹的な使命の一つは「見える化」なのです。

 電力を見える化してくれる電力料金計。その機能を備えたコンセントが、数多く発売されています。その中から、筆者が入手した代表的な3機種の中身を図1に示します。

図1●市販されている電力料金計3機種はいずれも台湾製マイコンを採用
図1●市販されている電力料金計3機種はいずれも台湾製マイコンを採用

 電気料金計はもっとも原始的な「見える化商品」ですが、可能ならばすべての住宅やオフィスのコンセントがその機能を備えるべきでしょう。スマート・メーターは高度な電力管理ができるとうたわれていますが、果たして「コーヒー1杯分のお湯を沸かすのにかかった電力料金」を見える化できるかどうかは不透明です。単にスマート・メーターを導入するだけでは、理想的な節電はできないかもしれない。

 筆者は電力料金計が今後、より簡便で測定分解能の高いものに洗練され、社会で広く活用されるべきだと考えます。電力料金計は、多数を組み合わせて使うことで非常に面白い商品に発展する可能性を秘めている。消費電力や基本料金の他に、位置情報や製品情報、時間などに関する情報を備えているからです。インターネットを介してこれらの情報をデータベース化すれば、これまで見えていなかった情報を可視化できるかもしれません。少なくとも、現在の家電製品は電源を確保するためのコンセントを備えているだけで、「何がどこでどれだけの時間使われたか」という、電力ネットワークに対する情報は含んでいません。

 電力料金計を介した社会データの「見える化」。先にも述べたように、これは半導体がもっとも得意とするところの一つです。その手段として、PLC電力通信も非常に優れた方式の一つではありますが、コンセントにつながっているのが冷蔵庫なのかアイロンなのかといった区別は十分にはできていない。現状では、コンセントにつながっている電気製品一つ一つを判別するような製品はほとんど存在しておらず、先に紹介したような電気料金計が個別に売られている状況にとどまっています。

中身は台湾メーカーのチップばかり

 さて、先に紹介した電力料金計3機種には、日本製半導体が一切使われていません。3機種のいずれにおいても、メイン・チップとして台湾メーカーのマイコンが使われています。電気料金計などはいかにも日本の得意分野に思えるのですが、実態はさにあらずです。電気料金計に似た製品として、火災報知器があります。図2に、現在市販されている火災報知器の代表的な4機種とそれらのメイン・チップを示します。ここでもまた、日本製半導体の比率は決して高くない。この他、Bluetoothを介したスピーカーや、手袋型Bluetooth電話のようなユニークな商品も増えていますが、ここにも台湾メーカーのチップが多く採用されています(図3)。

図2●市販されている火災報知機4機種では、日本製マイコンの搭載率は50%
図2●市販されている火災報知機4機種では、日本製マイコンの搭載率は50%

図3●市販されているBluetooth商品2機種は、ともに台湾メーカー製チップを採用
図3●市販されているBluetooth商品2機種は、ともに台湾メーカー製チップを採用

 こうした、どこの家庭にも浸透している、またはこれから浸透していくであろう身近な製品に、日本製半導体はほとんど使われていない。この認識を皆さまにもぜひ共有して頂きたいと思います。

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