スピード向上できめ細かく

 機構解析の最近の機能強化の方向は、[1]解析計算スピードの向上、[2]タイヤやゴムローラなどの弾性変形や振動の取り扱い、[3]ユーザーがすぐ使えるような機械要素部品モデルの用意、といったところだ。

 このうち[1]の例として、「Adams」(米MSC Software社)の新アルゴリズムに基づく高速ソルバ(HHT積分器)が挙げられる。商用ツールとして販売が始まった1980年代以降、約30年間改良しながら用いてきたソルバとは別に、新たに開発したものだ。例えば、従来ソルバでは40秒程度かかる計算が、新ソルバでは10秒前後で済む場合がある*1

*1 以前のソルバと新ソルバを切り替えて使える。以前のソルバを残しているのは、長期間の改良の結果として信頼性が高いため。計算が収束しにくい状況になったときに自動的にアシストする機能を多く作り込んであるため、答えが安定的に得られる。

 コンピュータのハードウエアの性能は年々向上していくから、その分は放っておいても解析スピードは向上する。さらに、直観的には「機構解析の計算は構造解析に比べて時間がかからない」(エムエスシーソフトウェア)にもかかわらず、スピード向上のための改良が必要なのは、ユーザーがより実製品に近いモデルで、細かい挙動まで解析できるようにするためだ。

 以前の機構解析は、機構をかなり抽象化したモデルを用いて、基本的な動きの成立性や動作中の大まかな負荷の状況を知る使い方が多かった。しかし最近は、歯車やモータまで組み込んだモデルを作成し、モータの特性や歯車のバックラッシまで計算に入れた上で機構の動作状況を再現するような使い方に変わってきている。車輪を実走行相当の速度で回しつつ路面の凹凸を想定した衝撃を車輪に与えるといった、実製品を使った実験と同等内容のシミュレーションを実行できるようになっている。加えて、実験で何を調べればよいか、センサ類をどこに取り付けるべきか、などといった実験前の下調べに使うこともある。