前回から、アメリカン・ドリームを体現した研究者を紹介している。米Sucampo Pharmaceuticals社 CEOの上野隆司氏である。(前回の記事「生まれながらの発明家、日本の課題を大いに語る」)

上野隆司氏。Sucampo Pharmaceuticals社 会長兼CEO。
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 緑内障治療用の点眼薬と慢性便秘症治療薬という二つの新薬を発明し、日米でそれぞれ製薬企業を上場した人物だ。事業で成功して財を成した経営者であると同時に、今でも第一線で新薬の研究開発を続けている「華麗なる技術者」である。

 上野氏は1996年から米国に居を移し、米国市場で新しい薬の事業開発を目指した。

 なぜ米国だったのか? 日本では起業家は生まれないのか?

 この疑問をぶつけると、意外にも「日本でも新しい事業を興す土壌がないわけではない」という回答が返ってきた。

 「日本は、個人投資家が多いでしょう。本来は、機関投資家として完全なファンドマネジャーが運用する米国よりも、夢に懸けられる環境があるように思います」

 ただ、大企業や安定を求める若者たちが多いことに加え、チャレンジさせない風潮があると上野氏は指摘する。前回も紹介したように、メディアや政治がスモールビジネスの暗い側面をクローズアップする傾向が強いからである。

新しいことに挑戦したい若者は必ずいる

 上野氏によれば、今でも日本から飛び出し、米国で新しいことに挑戦しようという若者は少なからず存在する。そうした人々は米国に渡ると、現地の空気にさらされて「アメリカン・ドリーム」を追求する方向に気持ちが強まっていく。自由な立場になれるが、そのままでは収入がなく食べていけない。そうした状況に置かれることで、必死で努力するようになるという。

 日本で大企業にどっぷりと浸かってしまうと、「他人と違うことをして儲けよう」という意識が希薄になってしまう。大企業の型にはめられた研究では、新しいものを見つけられないのだと、自身の経験も含めて上野氏は分析している。「研究開発は、時に博打に近い意識で取り組む必要がある」というわけだ。

 「事業を始めるには、資金を借りる必要があります。その資金は返さなければならなりません。しかも、起業家はリスクの高いことに挑戦しながら返す必要があります。それは難しいし、一番苦しい。でも、リスクが高いからこそ、リターンが大きいのです」

 医薬分野の研究者として発明をすると決めた上野青年は、30歳ころに、ある物質を発見し、「プロストン」と名付けた。後にケガや病気などで傷ついた細胞を再生・修復する役割を担うと分かり、上野氏の成功に結び付く物質である。