前回は、「設計基準」と「設計手順」の違いという観点から、なぜ設計手順書がモジュラーデザイン(MD)の実現に不可欠であるかについて、MDの第一人者である日野三十四氏に聞いた。今回は、世間一般の議論が部品をモジュール化することばかりに向けられており、設計論には踏み込んでいない原因について、「設計パラメータ」および「部品諸元」というキーワードを端緒に同氏が切り込む。(聞き手は高野 敦=日経ものづくり)

――MDはモジュール化する設計の方法なのだから設計の手順を確立しなければならないというのは、よく分かりました。MDを実現する上で設計手順を明らかにする作業、つまり設計の原理原則を追求することは、避けて通れないわけですね。

日野三十四(ひの・さとし)氏
モノづくり経営研究所イマジン所長。マツダに30年以上勤務し、技術情報管理や技術標準化を推進した後に、2000年に経営コンサルタントとして独立。韓国の世界的な電機メーカーを皮切りに、日本の最大手の重工業メーカー、電機メーカー、産業機械メーカー、電力システムメーカーなどに対しモジュラーデザイン(MD)のコンサルティングを行ってきた。2011年6月、MDを普及させるべく、コンサルティング会社を中心とした「日本モジュラーデザイン研究会」を設立。主な著作に『トヨタ経営システムの研究 永続的成長の原理』(2002年、ダイヤモンド社)、『実践 モジュラーデザイン 改訂版 工場空洞化時代に勝ち進むために』(2011年、日経BP社)。他論文多数。

日野氏:その通りです。ところが、世間一般で「モジュール設計」や「モジュール化」といわれている手法の多くは、実際には設計論までは言及していません。部品をモジュール化する方針や方法はあっても、それらをどう組み合わせて製品に仕立てるのかについては立ち入っていない。それは、モジュール化かもしれないけど、モジュール設計やMDとはいえないでしょう。

――モジュール化さえすれば、それを組み合わせて製品になることは当然であるかのような話になっていると。

日野氏:そもそもMDにおける最大の難問は、部品同士がぴったり合うように標準化することです。そうするには、部品同士を組み合わせる設計の手法を明らかにした上で、「設計パラメータ」と「部品諸元」の整合、つまり部品同士のインタフェースについてきちんと整合取りをする必要があります。その整合取りの手法を確立しない限り、MDは決して実現できません。設計パラメータと部品諸元の整合を取るには、設計パラメータをモジュール化し、それから部品諸元をモジュール化する。

 そうなってくると、まさしく設計手順が求められる世界になります。設計手順を明確にしないと、設計パラメータをモジュール化したときに部品諸元をどうモジュール化できるかという関係が絶対に分からない。だから、設計手順を確立してその関係を明らかにすることが先だといっているのです。

――そのあたりで、理論式と現実のズレを追求するという話もつながってくるわけですね。そこを追求せずにごまかしていると、設計パラメータと部品諸元の関係も分からない。

日野氏:分からないです。要するに、世間一般でいわれているモジュール化は、部品だけを眺めたモジュール化です。部品だけを眺めていてもモジュール化はできるかもしれないけど、それはMDではない。繰り返しになりますが、MDというからには、モジュール化された部品を組み合わせて製品にする手順まで明確になっていなければなりません。

――設計論までは立ち入らないモジュール化の議論が目立つのは、設計パラメータおよび部品諸元という厄介な部分に触れずに済むからかもしれません。

日野氏:例えば、自動車の設計パラメータであれば、出力やトルク、燃費だけではなく、振動や騒音、熱、操縦安定性などもありますし、どんな寒冷地や熱帯でもエンジンが始動しなければならないとか、少なくとも10年あるいは10万kmは故障しないで走らないといけないとか、数百個ほどのパラメータがあるわけです。それらのパラメータに対して、どの部品を組み合わせても対応できるモジュール化された部品を設計するには、部品だけを眺めても仕方ないということです。