製品であろうと部品であろうと、日本の擦り合わせ能力を生かすためには、メカ(機械)とエレキ(電気)の両方の要素を擦り合わせて設計していくことが有効であるし、実際、多くの製品はそのように設計されている。通常、メカ設計とエレキ設計の担当部門は異なるため、両部門間のコラボレーションと設計検証を効果的にIT で支援できれば、大きな競争力になるはずだ。

 エレキ設計は通常、2D-CADによって行われるが、エレキCADのアウトプットであるプリント基板の形状データは3Dモデルで表現可能である。ここに着目した株式会社図研は、プリント基板の3Dモデルに何を期待するのかをユーザー調査した。その結果は非常に興味深いものであった。ハーネス設計や熱解析などのCADやCAEで活用したいというニーズは全体の2割にも満たなかった。また、ドキュメントへの利用といった後工程での3D活用への期待も3割程度にすぎない。全体の半分を占めたのは、メカとエレキの干渉チェック、そして、メカ部品とエレキ部品とが組み合わされることで起こるショートや静電気の発生といった問題発見のための利用だった。

 電気的な問題の検証は、これまで大変な手間をかけてCADでチェックしたり、実験室での人海戦術に頼ったりしてきた。ここにメスを入れたい、ということが最大の関心事だったのだ。

メカとエレキの統合3Dモデルを作る

 これをITで実現するためには、実機と同等のメカ形状とエレキ属性情報を持つ3Dデジタルモデルが必要だ。既にメカCADデータをXVL化するツールは多数存在する。では、プリント基板のデータはいかに3Dモデル化できるか。エレキ設計に図研の「CR-5000/Board Designer」が利用されていた場合、これを軽量なXVLモデルに変換するツール「BD-XVL Converter」が無償配布されている。これを利用することで、ラフな電子部品形状を持ったプリント基板の3Dモデルを作成できる。

 電気的検証を行うには、このラフな電子部品を実物に近い高精細モデルに置き換える必要がある。これをサービスとして提供しているのが電子部品モデルを供給する3Dモデルダウンロードサイト「ePartFinder」である(図1)。このサイトには、電子部品を製造販売するデバイスメーカーがその高精細な3Dモデルを提供し、ユーザーはそれを無料でダウンロードできる。デバイスメーカーにとってはePartFinderを介して、自社部品の利用をユーザーに促せるので、自発的に部品が集まってくる仕組みになっており、登録された3Dモデルの部品数は6万点を超えるという。

図1●詳細な3D部品データを提供するePartFinderの仕組み
図1●詳細な3D部品データを提供するePartFinderの仕組み
無償ツールBD-XVLもここで配布している。
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 これらを利用することで、プリント基板の高精細な3Dデジタルモデルが作成できる。各部品は導体か絶縁体か、あるいは、特定部位の電圧といった電気特性まで保持する。これとメカCADから変換されたXVLモデルを統合することで、実機と同等な3Dデジタルモデルが完成する。つまり、このモデルはエレキ特性とメカモデルの形状の双方の情報を再現できるので、実機を置き換えることが可能だ。前述した調査で大きなニーズのあることが分かった干渉計算や電気特性をデジタルモデル上で検証可能になる。

 一方で、プリント基板の3DモデルをSTEPのような汎用形式で出力し、それをメカCADに取り込めば、干渉計算はメカCADの機能でもできるという意見もあるだろう。ここで、留意しなければならないのは、プリント基板の3Dデータの巨大さである。電気特性を保持するためには、配線パターンや、ビアと呼ばれるプリント基板の配線層間を導通させる穴形状などのモデル化が必要である。高精細な電子部品で表現すると、そのデータサイズは自動車1台分のデータサイズとあまり変わらないレベルになってしまう。ここまでくると、残念ながら、現在の一般的なCAD用のPCでは扱えないのだ。