「今後は自動車向けと産機向けにも力を入れる」。2013年4月末から5月初めにかけては、各社の2012年度通期決算の発表シーズンでした。私はスマートフォンやタブレット端末向けに部品を供給しているメーカーを中心に決算説明会を回りました。そこでよく聞いたのが冒頭のフレーズです。

 業績が好調な企業は、部品が大手端末メーカーのスマートフォンにうまく採用されている企業が多いようです。特に米Apple社と韓国Samsung Electronics社の大手2社に採用されているかどうかが、各社の明暗を分けているように見えます。決算説明会では具体的な顧客の社名が明かされることはありませんが、それぞれ「Apple社に強い」「Samsung社に強い」といった特徴があるようです。

 ただし、「今後もスマートフォンで安泰」と考えているように見える部品メーカーは1社もありませんでした。「スマートフォンは遅かれ早かれコモディティー化する」というのが各社のコンセンサスのようです。

 その先例といえるのが、テレビとパソコンです。テレビ向け部品事業は、各社とも苦しいようでした。日本の大手部品メーカーは、海外メーカー向けの取引が過半数を超えている企業が多いので、テレビの不調は地デジ移行後の需要減に苦しむ国内だけでなく全世界的な傾向でしょう。パソコン向け部品の苦戦も共通しています。まれに「ノート・パソコンは好調」という部品メーカーがありましたが、よく聞いてみると、急成長しているタブレット端末と電子書籍端末がノート・パソコンのカテゴリに入っているのが原因でした。

 テレビ、パソコン、スマートフォンに共通しているのは、「ユーザーに情報を提示するタイプの機器」であることです。ユーザーが欲しいのは機器そのものではなく、その機器を使うことで得られる情報です。究極の姿は、ユーザーがハードウエアを意識しなくても情報を得られること。つまり、理屈の上では消えることが運命付けれている機器です。

 こう考えると、部品メーカー各社がその対策として自動車や産業機械に注力するのは自然なことに思えます。自動車の主な目的は「人や物を運ぶこと」。物理的なハードウエアの重要性が、情報機器よりも段違いに高いのです。産業機器には、情報系に近いスマート・メーターなども含まれるので一概には言えませんが、工場で使われる製造機械などは、物理的に存在しなければ意味がありません。

 もちろんこうした見方は大ざっぱすぎますし、それがすべてだと言うつもりはありません。自動車や産機は、採用までにかかる期間が長い代わりに、いったん採用されると長期間使われ続けるので、安定した事業になりやすいといった側面もあるでしょう。ただ、今後のエレクトロニクス業界には、「デジタル家電からインフラ系へ」という大きな流れが確実にある気がしています。