日経BP社および日経エレクトロニクスが、日本の大学の理工系研究室やベンチャー企業の研究開発を応援するべく立ち上げた「NE ジャパン・ワイヤレス・テクノロジー・アワード」。編集部が選出した10件の候補の中から、5人の審査員による審査会を経て、ついに最優秀賞など3賞を決定しました。

最優秀賞
慶応義塾大学 理工学部 黒田・石黒研究室
ワイヤレスSSDに向けた高速通信技術
審査員特別賞
東北大学 電気通信研究所 石山・枦研究室
補助人工心臓用のワイヤレス・ポンプ
日経エレクトロニクス
読者賞
豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 大平研究室
走行中のEVへのワイヤレス給電技術

 2013年4月12日の夕方。都内某所。「NE ジャパン・ワイヤレス・テクノロジー・アワード」の最優秀賞を決める審査会が始まった。出席したのは、NTTドコモの中村氏、クアルコム ジャパンの山田氏、ローデ・シュワルツ・ジャパンの笠井氏、そして日経BP社の林の4人。海外出張中のため審査会に出席できなかった情報通信研究機構の原田氏は、渡航前に審査結果を事務局に託していた。

割れる審査結果

 「10個の候補から三つを選ぶとすると、まず、東北大学の『補助人工心臓用のワイヤレス・ポンプ』を推します。人工心臓へのエネルギー供給を無線化して患者の負担を激減させることの社会的な意義は大きい」。ある審査員が口火を切った。「それから、慶応大学の『ワイヤレスSSDに向けた高速通信技術』ですね。チップ間通信の無線化を着想し、それを高い水準で具現化した技術力に感銘を受けました。また、立命館大学の『フィルタを可変にする「流体キャパシタ」技術』は、従来技術と大きく異なる発想を取り入れたことが面白い」。

 別の審査員は、こう指摘した。「埼玉大学の『EVに向けた双方向ワイヤレス給電技術』は、災害時などにEVから家庭に電力を供給可能にすることと、ワイヤレス給電の利便性を両立した点が高く評価できます。大阪大学の『テラヘルツ波による高速無線通信技術』は、周波数の有効利用に向けて重要な技術ですね。300GHzもの高周波数帯で高速通信できる小型デバイスを開発した意義は極めて大きい。そしてディー・クルー・テクノロジーズの『20バンド対応のマルチバンド型パワー・アンプ』。20種類の周波数への対応をわずか5mm角で実現した技術は驚くべきものです」。審査員が推す技術は分かれた。高い技術水準の研究成果が集まったことの証左だろう。

 また別の審査員は「ここまで挙がっていませんが、私は豊橋技術科学大学の『走行中のEVへのワイヤレス給電技術』と、東京工業大学の『1チャネルで6.3Gビット/秒のミリ波IC』を推薦します」と声を上げた。審査はさらに割れてしまった。「前者は、自動車へのエネルギー供給の常識を変える技術であり、タイヤを介して伝送するという斬新さが評価できます。後者は、実用化前のミリ波通信用ICの分野で、世界的に見ても完成度が高い研究になっています。こうした研究を大学が手掛けているのは、ミリ波応用で日本が先行することにつながるでしょう」。