ソフトウエア無線が相次ぎ実用化している。一つのハードウエアをソフトウエア制御で多様な通信方式に対応させる。応用可能なのは民生機器だけではない。高い柔軟性を生かし、社会インフラを高度化する“ソーシャル・デバイス”のコア技術にもなりそうだ。

 ソフトウエア無線が提案されたのは1991年のこと(『日経エレクトロニクス』2008年6月16日号、pp.67-72に関連記事)。アンテナで受けた電波をデジタル信号に変換して、マイクロプロセサ(あるいはデジタル信号処理プロセサ)に取り込んで処理する(下図の(a))。特定の周波数や変復調方式に特化した受動部品や半導体をなくし、原理的にはあらゆる受信信号をソフトウエアで音声信号や動画データなどに復調できる。

 もっとも、周波数が数百MHz~数十GHzのRF(無線周波)信号をデジタル信号に変換すると消費電力が大きくなってしまうため、現在の製品は、いったん低い周波数に変換してからデジタル化する手法を採用している(下図の(c))。RF信号を低周波数信号に変換する部分には受動部品や半導体が必要となるが、ここをソフトウエア制御の可変RF回路とする。あるいは、ソフトウエア制御で変更する無線方式を特定周波数帯域(バンド)向けに限定することで、可変RF回路を使わずにすませる手法もある。

 1990年代後半以降、携帯電話、無線LAN、Bluetoothなど多くの無線システムが大量に使われる過程で、ソフトウエア無線の開発は主に柔軟性を生かす目的で進んでいる。「コグニティブ無線」が好例である。周波数の空き状況に応じて各無線システムの帯域割り当てを動的に変える手法で、例えばテレビ放送用帯域が空いていれば携帯電話がそこを利用する。

『日経エレクトロニクス』2008年6月16日号より
[画像のクリックで拡大表示]