長く続いた過度の円高の修正が進み、日本の自動車業界が好決算に沸いています。その一方で、パナソニックが7722億円、ソニーが4567億円、シャープが3760億円――。2012年3月期決算で、日本を代表する電機メーカーが大幅な赤字決算に沈んだのはまだ1年前のことです。2012年度の決算でも、日本の電機産業が復活する見通しはまだはっきりしていません。

 電機産業ではこれまで、液晶テレビ、携帯電話などの電子機器において、技術開発では先行しながら、グローバルな普及期には韓国企業に世界トップの地位を奪われるということを繰り返してきました。その結果が、今日の電機業界の苦境につながっています。こうした電機産業の現状は、自動車産業にとっても、決して他人ごととはいえなくなってきました。車両のコストに占める電機・電子部品の製造コストに占める比率は通常の車両で30%程度、ハイブリッド車(HEV)では50%、電気自動車(EV)では70%程度に達するといわれ、その産業構造が電機産業へと近づいているからです。

 これまで電機・電子製品と、自動車部品の間には大きな違いがありました。それは、「コモディティ部品」と「専用部品」の違いです。液晶テレビやスマートフォンなどの代表的な電子機器では、汎用的な部品を使って製品を製造するのが当たり前です。汎用部品は量産規模が大きいので性能の向上が急速に進み、コスト競争力も高まります。製品に競争力を持たせようと思ったら、汎用的な部品を使うしかないのです。

 これに対して、自動車部品では、汎用的な部品も一部には使われていたものの、エンジンや変速機など競争力を左右する部品は自社開発・自社生産するメーカーも多く、専用部品の多い製品といえます。ところが、クルマの電動化・電子化はこの常識を変える可能性があるのです。例えば、最近のクルマでは、先行車との自動ブレーキ機能を備えているかどうかが売れ行きを左右するようになっています。

 こうした自動ブレーキ機能は、もともと日本の完成車メーカーが実用化では先鞭をつけたものですが、コストが高く、なかなか普及しませんでした。ところが普及期を迎えた最近では、メガサプライヤーと呼ばれる欧米系の大手部品メーカーが、量産効果によるコスト競争力を生かして、世界の市場でシェアを伸ばしています。いわゆる「技術で勝って、ビジネスで負ける」というこれまで電機業界で繰り返されてきた日本の負けパターンが、自動車分野でも起こる可能性が出てきているのです。

 同じことが、日本が技術で先行するEV(電気自動車)の世界でも起こる可能性があるとみるのが、未来予測などを手がけるアクアビット代表の田中栄氏です。田中氏は、2025年に、中国、インドでEVの比率が約3割に達すると見ています。これだけ普及させようとすれば、電池やモータの大幅な低コスト化が必要となり、規格の標準化は必須です。標準化されたLiイオン2次電池がこれらの新興国で大量生産され、コストは急速に下がり、日本製電池のシェアは急速に低下する恐れがあります。

 こうした技術の「コモディティ化」の問題に限らず、これからの日本の自動車業界の研究開発はどうあるべきか。日経Automotive Technologyは様々な角度から考えていきたいと思います。2013年5月22日発行予定の次号「2013年7月号」の特集は「メーカー6社の研究開発リーダーに聞く2020年の環境・安全技術」。完成車メーカー6社の、研究開発の方向を決める立場にいる方たちにインタビューすることで、今後の戦略を明らかにしようとしたものです。

 また、これとは別に、「次世代自動車R&D戦略研究会」を4月末から立ち上げました。これは、様々な分野の専門家の方を講師に迎え、1カ月に1回、6カ月連続で実施する連続セミナーによって、広い視野から今後の自動車分野でのR&Dのあり方を考えようというもので、単に、講師の話を聞くだけでなく、講師との質疑応答の時間を長くとり、双方向の意見交換を通して議論を深めることを狙ったものです。5月27日に実施する第2回から参加することも可能ですので、ぜひご検討ください。