この“常識”が覆りつつある

 これも正直なところ、「普通の人が日常的に装着するのか」という疑問が常に付きまといます。アウトドア・スポーツをしたり、ゲームをしたりといった用途は面白そうで、とてもよく理解できるけれど、四六時中装着しているわけではありません。私のような凡人の頭の中にあるこれまでの常識からは、なかなか道歩く多くの人々が普通にHMDを身に着けている様子を想像できないのです。

 それでも、道歩く人々が携帯電話をいじっている様子は十数年前には想像できなかったわけで、「あの会社がやるんだから…」という気持ちも拭い去れない。多くのイノベーションは、「誰もやらないことをやれ」から生まれてくるということも多くの事例が証明しています。

 日経エレクトロニクスの根津禎記者によれば、

 「『重い』『ダサい』『何に使うのか分からない』――。ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)と耳にすれば、こうしたイメージを抱く人が多かった。だが、この“常識”が覆りつつある。軽くて小さくて格好いい、そんなHMDが続々と登場しているのだ

(『日経エレクトロニクス Digital』の特集記事「HMD、視界良好」から)

とのこと。

 確かにそう言われてみれば、昔のHMDに比べ、かなりスタイリッシュです。

 日常的に身に着ける機器で常にインターネットから情報を取得し、それを確認しながら生活する。もちろん、かなりのことがスマートフォンで実現できているわけですが、身体と一体化することでさらに一段上の新しいオンライン生活が始まる可能性は否定できない。我々は今、新しい人類が登場する節目の時代に生きているのかもしれません。

 腕時計にせよ、HMDにせよ、小さく軽くするエレクトロニクス技術の進化が実現をけん引するのは間違いありませんが、ビジネスで考えると本質は機器本体だけにあるのではないでしょう。日常を変える仕掛けが必要です。そこにイノベーションのカギがあります。

 果たして、これらの新カテゴリーは新しい日常生活を創造できるか。

 その時の日常を見たくない気持ちもありつつ、記者根性としては新しい日常に興味津々で魔法がとけぬように願う自分も存在しています。そもそも、目に見えぬからこそ、魔法なのかもしれませんけれど。