スマートフォンやタブレット端末がパソコンをしのぐ成長を示しています。先駆者は共に米Apple社。こうした市場を開拓した「iPhone」や「iPad」は、もはや一般用語として機能するほどに浸透しています。2000年代後半に起こった、小さな“革命”とも言える出来事。これが、我々の生活を決定的に変えてしまったと言えるかもしれません。どこにいてもインターネットに接続できる環境を生み出したからです。

 筆者は週2回ほど、片道1時間くらいの道のりを電車で移動します。その間、たいていはスマホでインターネットのニュース・サイトなどを読んでいます。以前は「電車に乗っている時間は無駄で退屈」という気持ちが強かったのですが、今では読みたい物があると電車の中でスマホを使って読むようになりました。代わりに自宅や仕事中には読まないようになりました。このように、スマホの浸透は生活の時間配分を変えてしまうインパクトがあります。先日、出先で早朝5時に自動車がパンクするという災難にあいました。修理が終わるまでに4時間を要したのですが、その間の時間も無駄で退屈とは感じなかった。スマホのおかげです。

 こうした変化は、いわゆる先進国だけのものではありません。筆者の職場ではアジア出身者の方々が多数働いていますが、日本人以上にスマホを使いこなしているという印象を持ちます。本国とのやり取りはもちろん、日本語によるコミュニケーションの助けに使うといった具合に、使い方も多様です。

 さて、話は変わりますが、昨年幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2012」に足を運ばれた読者は多いのではないでしょうか。図1に、筆者らが撮影した当日の海浜幕張駅の様子を示しました。中国Huawei社による「広告ジャック」の様相を呈しています。中国のエレクトロニクス・メーカーが、ここまで徹底した広告パフォーマンスを見せた例は、筆者の記憶にはありません。Huawei社は中国を代表するグローバル企業です。にも関わらず、これほどの演出をしてまで日本での知名度を上げようとしている。中国でもいかにブランド戦略が浸透しているかを、象徴的に示す出来事でした。

図1●CEATEC JAPAN 2012会期中の海浜幕張駅
図1●CEATEC JAPAN 2012会期中の海浜幕張駅

 ブランド戦略を重視することに加えて、中国企業にはもう一つ大きな特徴があります。スピードです。例えば、中国の半導体メーカーが手掛けるチップは、仕様などの発表からわずか数カ月以内(早い場合は翌月)に、そのチップを搭載した最終製品が市場に出回ります。図2に中国Fuzhou Rockchip Electronics(Rockchip)社のチップの搭載事例、図3に中国Allwinner Technology社のチップの搭載事例をそれぞれ示しました。中には世界的に有名なメーカーの端末もありますが、ほぼ無名の新興メーカーの端末も含まれています。

図2●Rockchip社製チップの搭載製品の事例
図2●Rockchip社製チップの搭載製品の事例

図3●Allwinner Technology社製チップの搭載製品の事例
図3●Allwinner Technology社製チップの搭載製品の事例

 中国半導体メーカーのこうした販売手法を見ていますと、彼らのチップがどれほど幅広く採用されているのか、その実態を把握することは事実上不可能ではないかとさえ思えます。驚くべきことは、たった1種類のチップが多くのメーカーの複数の製品に一瞬にして採用されていく、そのスピードの速さです。いかに「ターンキー・ソリューション」「キット・ソリューション」とはいっても、瞬く間に10種類近くの製品に採用され、それらがほぼ同時に発売されるというスピード感は、日本や欧米では見られない特徴といえるでしょう。

 ある半導体メーカーのチップが、新製品が発売されるたびに一挙に浸透するというパターンは、かつてはパソコンの世界で米Intel社のチップに見られました。ただし同社の場合は、2012年は「Ivy bridge」、2013年は「Haswell」といった具合に、製品ロードマップを明確に示しています。ですから、パソコンなどの端末メーカーはそれに合わせて新製品を企画すればよく、発売時期や販促活動をコントロールしやすい。

 これに対して中国メーカーのチップは、ある日突然ウェブサイトで新製品が発表されるやいなや、そのチップを搭載した新製品がまるで豪雨のように降り注いでくる。その背後で端末メーカーやデザイン・ハウス、チップ・メーカーが互いに絡み合って動いていることは間違いありませんが、そこにも想像以上に多彩な組み合わせが存在しているのでしょう。

 「似たようなものがたくさんある」ということ。これは豊かさの一つのあり方です。わずか数種類の商品しか置いていない店での買い物が、楽しいはずはありません。互いに似た多くの商品の中から自分の好みの一つを選ぶ行為。それが買い物であるはずです。そういう意味では、中国におけるスマートフォンやタブレット端末の品ぞろえの豊富さは、理想的とも言えるでしょう。

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