先日、取材先の方々と設計者のコスト意識についてお話しする機会があったのですが、ある製品の中に公差が厳しすぎる部品の存在が明らかになったとき、どのような対応が考えられるかというテーマで議論が白熱しました。公差が厳しすぎて高コストになった部品の公差を緩めるだけでは、製品としての目標品質を実現できません。他の部品を含め、総合的に考える必要があるわけです。

 一般的に、公差を厳しくすると加工コストも上昇しますが、全ての領域で比例関係にあるわけではありません。公差がある値よりも大きい領域では、加工コストがほぼ一定となるはずです。そのしきい値は工作機械の性能や加工する環境などによって変わってくるので、部品ごとに確認する必要があります。

 さて、この事実を踏まえた上で冒頭のお題です。まず、公差が厳しすぎた部品(以下、部品A)の公差を緩めるわけですが、そこで目安となるのが、加工コストがほぼ一定の領域の中で最も高精度を実現できる点(これは±aとします)です。それ以上公差を緩めてもコストメリットはほとんどないわけですから、まずは部品Aの公差を±aに緩めます。

 ただし、これだけでは製品の品質を満たすことはできないので、他の部品の公差を厳しくしなくてはなりません。部品Bや部品Cに設定した公差が、精度とコストの関係をプロットしたグラフの中でどの位置にあるのか、を確認する必要があります。ここでは、部品Bの公差(±b1)を少し厳しく(±b2に)しても、コストは上昇しないとします。しかも、部品Bの公差を±b2にすれば、製品の品質を満足させられることも確認できました。

 これで、めでたしめでたしのはずなのですが、ある方から1つの疑問が投げかけられました。「部品Bの新しい公差にも余裕があったらどうする?」というものです。つまり、部品Bの公差±b2をもっと厳しい±b3としてもコストがほとんど変わらないという状況です。

 この疑問に対しては、「部品Bの公差を±b3にまで厳しくして、製品品質をもっと向上させるんじゃないか」、「いや、製品品質は必要十分なはず。部品Bの公差を±b3にするとしても、そこで厳しくした分は他の部品の公差を緩めるのに割り振ってコストダウンを図るべき」などと意見が分かれます。「そもそも、公差に余裕がある部品なんかあるはずない。ぎりぎりのところで、少しずつ公差を調整しているのが現実だ」という意見も出て、なかなか話はまとまりません。

 もちろん、これは架空の話なので結論が出るわけでもないのですが、「実際の設計でも解決策は無数にあって、設計者がさまざまな要因を総合的に考えて決めるもの」というある方の言葉が印象的でした。

 一方、「加工精度とコストの関係を知らなかったり、気にしなかったりする設計者が増えている」ということを取材で聞いたことがあります。品質とコストに大きな影響を及ぼす公差について、「流用元の図面から転記するだけで、検討し直す時間がない」という実情を語る設計者もいました。日本のものづくりの競争力を向上させるためには、このような状況から脱却することが不可欠ではないでしょうか。