耳鳴りがする。もう1年にもなろうか。右の耳に意識を集中すると、キーンと甲高い音が聞こえる。気のせいで済ませるには、長続きしすぎている。何かに集中しているときにはどこかへ消えているのに、ひと息入れたりすると再びそこへ戻ってくる。

 耳鼻科で診断してもらうと、右耳の聴力が一部衰えていることが分かった。聴力の周波数特性みたいな図を書いてもらうと、2000Hzあたりに落ち込みがある。大音量で音楽を聞きすぎたせいか。ところが医師によれば、騒音による聴力のダメージは、もっと高い周波数で現れるらしい。結局、原因は分からない。うるさい場所では耳栓をするなど耳を養生して回復を待っているが、体感上さほど改善はない。ひょっとすると遺伝かもしれない。

 いずれにせよ、日常生活に大きな支障があるわけではない。大好きな音楽を思うように楽しめないくらいか。通勤電車では、すっかり耳栓を手放せなくなった。変わり者と思われぬよう、ひもを付けてイヤホンに見せかけている。聞こえてくるのはノリノリのロックンロールの代わりに耳鳴りだが。

 もう一つ不都合があった。このところ聞き間違いが増えた気がする。呼びかけられたと思って「ハイッ!」と威勢よく返事をすると、別人宛てだったりする。そういえば、テレビ番組でセリフがわからず、隣に座った家内に尋ねることも多い。単語をわざと聞き間違えて笑いをとるのが自分の芸風だったが、だんだん洒落にならなくなってきた。そろそろ補聴器の出番だろうか。

 今どきの解決策を探して、スマホ向けアプリを検索してみた。メーカーの説明を見る限り、相手の声を聞こえやすく変換するものが多いようだ。しかしいずれも、いかんせんイヤホンが要る。耳をいたわり、音楽断ちをしている身にはどうにも抵抗がある。

 それより、こんなのはどうだろう。自分の代わりにあらゆる音声を聞き取ってくれるアシスタントのアプリだ。誰かが呼びかけてきた時には、振動でそれとなく教えてくれる。お笑いのオチを聞き逃しても、画面に流れる字幕を読めばいい。アシスタントが聞き耳を立てれば、人の感覚には捉えられない隣の部署のうわさ話もキャッチできるかもしれない。いずれは骨伝導か何かの技術が進歩して、イヤホンなど付けなくても聴覚に音を届けてほしい。そうなれば、耳元で女性がささやくなんてのもいい。

 日経エレクトロニクスの5月27日号に掲載予定の記事では、コンピュータが人をアシストする、新しいユーザー・インタフェースを解説している。原稿に登場するのは、顔認識や視線認識の応用例だが、その延長線上にあるのがこうしたアプリであることは間違いない。50歳にも近づくと友だちとの会話が得てして体の不調自慢になりがちだ。この宝の山を放っておくメーカーはないはずだ。

 かく言う私も、耳ばかりか目や鼻、足腰など各所に不具合が現れている。それぞれ書き始めたら、紙幅がいくらあっても足りないくらいだ。何だか勢いがついてしまった。次回はぜひ、私の鼻の不順について書いてみたい。