日本メーカーが力を入れる新興国市場の攻略について、技術経営を専門とする一橋大学 イノベーション研究センター 教授の延岡健太郎氏は、「“安く作って、高く売る”ための価値づくりの重要性は、先進国でも新興国でも同じ」と語る。「新興国で過当競争や過剰スペックの落とし穴に入り込んでしまっては、日本メーカーは勝てない。」と指摘する。

のべおか けんたろう 1959年生まれ。1981年、大阪大学工学部を卒業後、マツダに入社し、商品戦略を担当。1993年、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)で経営学博士を取得。1994年、神戸大学 経済経営研究所 助教授。1999年、同大学 教授。2008年から現職。専門は経営戦略、組織、技術経営。主な著作に『MOT[技術経営]入門』(日本経済新聞社)など。

 過当競争を避けるために機能的価値を高めて独自性を出そうとすると、「過剰スペック」という落とし穴が待ち構えている。独自性を実現できても、顧客がコスト上昇に見合う対価を支払ってくれない状況が増えた。新興国で過当競争や過剰スペックの落とし穴に入り込んでしまっては、日本メーカーは勝てない。

 この状況から抜け出すために、これまで以上に重要性を増しているのが、意味的価値である。商品全体のイメージや品質感、デザインなどを顧客が主観的に判断し、意味付けすることで生まれる価値だ。高い収益を上げている企業は、意味的価値の高い商品を投入しているケースが多い。

 分かりやすい例は、高級ブランドや高級車などである。商品やブランドが持つ雰囲気などが意味的価値を高め、高価格で商品が売れる。ただ、意味的価値は、高級品だけが備える特殊な価値ではない。すべての商品は、機能的価値に加え、意味的価値を備えている。

 ユニクロの洋服は、意味的価値を最大化している好例だろう。価格だけならば、安い洋服を作れる企業は、いくらでもある。顧客が低価格の洋服を喜んで買ってくれるように、店舗のイメージや品ぞろえ、機能性などのバランスを工夫することが、高水準の収益を支えている。

 家庭用ゲーム機では、任天堂の「Wii」が象徴的だ。ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション 3」は確かに描画性能などは高いが、顧客はWiiのユーザー体験という意味的価値に軍配を上げている。