世界中の何人がこのタイトルを遊んでくれるのか――の読みが会社の命運を左右することに

――スマートフォン向けゲーム市場はどうなっていきますか。

襟川氏は「ニッチマーケットを育てて、メジャーにすることがゲームビジネスの醍醐味だ」と話す

襟川氏:これまで市場を牽引してきたカードバトルゲームなどのソーシャルゲームに加えて、組み合わせの妙で注目を集めているガンホーさんの「パズル&ドラゴンズ」のようなスマホアプリも出てきました。また、MMORPGをスマホ向けにアレンジしたゲームや、パッケージゲームを章立てにしたアプリなど、さまざまなタイプのスマホ向けタイトルがあると思います。

 スマートフォンはこれから、世界最大のゲームのプラットフォームになるでしょう。我々は良質なコンテンツを提供できないと生き残れないと感じています。また、ゲーム自体の面白さはとても大事なのですが、ビジネスモデルの組み立て方も重要ですね。現実に、ソーシャルゲームも、フィーチャーフォン向けはシェアが急激に少なくなり、スマホへのシフトが進んでいます。当社も、オリジナルのダウンロードアプリにチャレンジし始めましたので、これから結果が出てくることを期待しています。

 当社はPCゲームからスタートした会社ですので、当社のIPとブラウザゲームの相性は非常に良いですね。「100万人の信長の野望」や「100万人の三國志」、「100万人のウィニングポスト」などのブラウザゲームは、順調に会員数を伸ばしています。ブラウザゲームはこれから日本でも東南アジアでも非常に期待できるのではないかと思います。

――家庭用ゲーム機向けタイトルのビジネスモデルも変わってきていますか?

襟川氏:1000万本以上売れる超大型タイトルについては、それ相応の膨大な開発費やマーケティング費が必要だと思っています。そのタイトルを世界中の何人の方に楽しんでいただけるのか、という読みの精度が求められていると思います。そこまで費用をかけたタイトルがうまくいかなかったときの損失が、会社の命運を左右するところまできています。米国の大手ゲーム会社でも、Chapter11(米連邦破産法第11条)を申請していたりする時代ですから。

 先ほどシミュレーションという話もありましたが、その精度が非常に大事になってきました。例えば、グループの一員になったガストはわずか30人ほどの長野の中小企業ですが、2011年度の利益は5億円くらいありましたし、2013年3月期は6~7億円ほどの利益になると思います。超優良な収益性にあふれた企業ですが、一つのタイトルの販売本数は10~15万本くらいなんです。その中できっちり利益が出るように予算をコントロールして、最高の品質のゲームを作るということを創業以来ずっと続けている会社なんですね。

 そういう会社の遺伝子で育ってきた社員は、読みが非常に鋭い。自分たちが新しいタイトルを作ると、何本くらいはファンの方が買ってくださるだろうという見通しができています。それに対する開発の予算とか、キャラクターデザインの方に何枚描いてもらい、それをいくらにすればいいのかという計算がきちんとできているわけです。そうしたビジネスの組み立て方が大事だと思うんです。2000万本で利益を出すことも一つのアプローチですし、15万本で利益を出していくということも一つの方法です。

 ただし、100億円かけておいて、15万本しか売れなかったらそれは悲惨なことになります。逆に10万本、15万本を狙っているタイトルであっても、うまくマーケティングやお客様の嗜好に合ったものを作れば、ひょっとすれば20万本、30万本までいくかもしれない。そうすれば、次は50万本になるかもしれない。そういう風に、ニッチマーケットを育てていき、そこからメジャーにもっていくことがビジネスの醍醐味だと思っています。いきなり冒険して100万本を狙って一発勝負ということが今の時代はできなくなっています。やっぱり地道にやっていかなければなりませんね。

 ファンを大切にするということが、企業に求められています。ファンのニーズや期待にこたえるゲームを作っていくことが、厳しい時代を生き抜いていくために必要な要素ではないかと思っています。

――家庭用ゲームタイトルでは、スモールスタートのビジネスに徹するということでしょうか。

襟川氏:そうですね。ゲーム業界の創世記には、何百万本も売れるということはありませんでした。原点に返って、ゲームのファンが喜んでくださるゲームを作るという初心に帰るタイミングではないかと思います。もちろん既存のIPだけではなく、新規のIPを作ることも大事です。

 すでに発表していますが、2013年の新タイトルとして「討鬼伝」を6月27日に発売する予定です。私どものアクションゲームのノウハウをハンティングゲームに盛り込んで、ここでナンバーワンになるんだという意気込みでいます。会社にとっては、戦略商品としてのチャレンジも必要です。

 私個人はゲームクリエイターとして、新しい面白さを作り続けたいという思いは持っていますし、そういう野望もあります。それをビジネスに結びつけて成功させるというのが私の役割ですから。ゲームで遊ぶのも楽しいのですが、ゲームを作ることはもっと楽しいのです。いつまでもそういう立場、場所にいたいですね。

「討鬼伝」
プレイステーション Vita、パッケージ版6090円(税込)/PS Storeダウンロード版5400円(税込)、PSP版5040円(税込)/DL版4500円(税込)、2013年6月27日発売予定
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