この誤差を減らすために3時間測定した1時間値の平均値が85μm/m3を超えた場合を注意喚起の判断材料にしてほしい。これが環境省の通達である。同省が推奨する注意喚起の暫定的な基準は、PM2.5の1日平均値(自動測定装置で測った24時間値)が70μg/m3を超えること。ただし、1日計測した値が出るのを待って注意喚起しても、迅速性を欠く。

 そこで、自動測定装置を用いて早朝の3時間で測定した1時間値の平均値が85μg/m3を超えた場合を、その日に出す注意喚起の基準にしている。3時間測定した1時間値の平均値と1日平均値の関係を統計的に調べた結果、1時間値が85μg/m3を超えると、1日平均値が70μg/m3に達する可能性が高かったためだ。

専門家に聞く、1時間値が正確ではない理由

 では、こうした背景で取りまとめた注意喚起の指針や、PM2.5の測定値の運用について、どう考えればいいか。PM2.5に関する専門家会合のメンバーで大気中の粒子状物質の測定に詳しい埼玉県環境科学国際センター 総長の坂本和彦氏に聞いた。

―― 1時間値だけで注意喚起を判断できないのは、なぜでしょうか。

坂本 和彦(さかもと・かずひこ)氏。埼玉県環境科学国際センター 総長/埼玉大学名誉教授。1945年埼玉県生まれ。1973年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1990年に埼玉大学工学部教授。1995年に同大学大学院理工学研究科教授。同大学で理工学研究科長や工学部長、環境科学研究センター長などを歴任。2011年4月から現職。専門分野は大気環境化学や環境制御工学。

坂本 自動測定装置による1時間値は、標準測定法で測った24時間値と比較して測定誤差による揺らぎが大きく、基本的な問題があるからです。自動測定装置による1時間値は24時間値を算出する際に途中で出てくる数値で、正確さや精度が担保されていません。

 自動測定装置で測定した1時間値については、現状では正確な濃度の絶対値を測定できる方法がないのです。標準測定法は基本的に24時間値を測定する装置を用いるため、自動測定装置と等価性を比較する1時間の標準値を測定できません。

 自動測定装置では、同じ環境下で測定しても、機種が違えば1時間値の精度が少しずつ違う可能性があります。PM2.5の測定が難しい理由は、採取した粒子が空気中の水分によって重くなったり、長時間放置しておくと揮発して質量が軽くなってしまったりすること。標準測定法では、24時間粒子状物質を採取したろ紙の質量を一定の湿度と温度の下で厳密に測ります。自動測定装置では算出した24時間値が標準測定法による値と合えば、湿度や温度の調整の手法などは各装置メーカーの選択に任されています。

 現在、自動測定装置で多い手法は、ろ紙に集めた粒子の濃度をβ線の透過率で測定する技術です。正確な24時間値を算出するために係数を掛けて測定値を質量に変換する手法はありますが、1時間値では変換係数を用いることで逆に揺らぎの幅が増えるかもしれない。

 この誤差を小さくするために、注意喚起には1時間値の3時間の平均値、できれば複数の測定局の平均値を用いた方がいいと環境省は推奨しているわけです。