測定手法の前提条件で誤差が生じる

 今のところ、こうした簡易型の測定装置には課題がある。測定による濃度の精度が担保されていない点だ。一定の精度を担保するには、本格的な環境調査に用いる測定装置を基準にした質量濃度に換算するための変換係数を割り出す必要がある。これは、時間がかかる作業だ。「製品化したばかりで、まだ精度を担保できる段階ではない。それでも要望が多いので、まずは製品を出してから精度についての検討を進めることにした」と、柴田科学の担当者は話す。

 簡易型の装置で測定できる濃度は、あくまで参考値で時系列による濃度の相対的な変化が分かるにとどまる。国が定めた大気中のPM2.5の環境基準値と絶対値として比較できる値ではないというのが現実だ。もちろん、それでも空気中の濃度が変化する様子を観測する際には役立つ。

左は、標準測定法で用いるPM2.5の捕集装置。右は、PM2.5が付着したろ紙の重さを測る精密電子天秤。自動測定装置は24時間分の値から算出した測定値が、捕集装置を用いて測定した24時間値と等価である。(写真提供:埼玉県環境科学国際センター)

 この簡易型の測定装置と相似形の精度についての考え方が、冒頭で紹介した環境省による各自治体への通達につながっている。

 環境省が定めるPM2.5の標準測定法は、24時間で24m3の大気を吸引してろ紙上にPM2.5を捕集し、ろ紙の重さを天秤で測って質量濃度を得る。つまり、1日測定した濃度(24時間値)である。この数値の1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ1日平均値が35μg/m3以下であることが環境基準だ。

 ただし、この測定法には時間と労力が必要なため、迅速な対応が求められる日常的な監視には向かない。このため、24時間値が標準測定法と等価であるPM2.5の自動測定装置を国が認証している。各自治体がPM2.5の測定に用いているのは、主にこの装置だ。

 自動測定装置では1時間ごとの濃度(1時間値)を測って、その24時間分の測定値から1日の測定値を算出する。この1日の測定値は、標準測定法による24時間値と等価で正確なものである。だが、途中経過で出てくる1時間ごとの測定値は、あくまで参考値という位置付け。装置を認証する際のもともとの基準が24時間値であるため、1時間値では精度に誤差が生じる可能性があるからだ。これが、1時間値で住民に注意喚起をするのが適当ではないという理由になっている。