選択肢が少ない簡易型の測定装置

 今回、横浜市が学校でPM2.5の測定を始めるに当たって困ったことがある。それは、各学校に運び込んで簡易に測定できる小型の測定装置があまり存在していないことだ。

 自治体による環境測定で用いているPM2.5の測定装置は大型で、価格が数百万円と高価なため学校での導入は現実的ではない。工場などの環境衛生対策で浮遊粉じんを測定するために型式認定を受けた小型の測定装置はあるが、その認定対象はPM2.5よりも粒径が大きいものを含む。「PM2.5については、きちんと測定できる装置の選択肢は少ない」(山崎氏)というのが現状だ。

 横浜市は、PM2.5に対応した簡易型の測定装置を各行政区に1台ずつ導入した。簡易型の粉じん測定装置で高いシェアを持つ環境測定機器メーカーの柴田科学(埼玉県草加市)が2013年3月に製品化した装置だ。

柴田科学の「PM2.5デジタル粉じん計」。上部に取り付けてある銀色の部分が、今回開発したサイクロン方式のPM2.5用分粒装置。交流電源に加え、単3電池(8本)でも10時間動作する。価格は35万円。

 同社によれば、PM2.5対応の簡易型測定装置を求める問い合わせは、昨冬からの関心の高まりを受けて増えているという。

 ただし、これまで扱ってきた粉じん測定装置は、工場やオフィスビルで粒径10μm以下の粒子状物質を測定することを想定したもの。より小さな粒径のPM2.5に絞って測定することはできなかった。ここにきて要望が増えたため、急ピッチでPM2.5対応品の開発を進めた。

 柴田科学の粉じん測定装置は、光散乱方式と呼ばれる測定方式を用いる。簡易型の測定装置では一般的な方式だ。粒子状物質を含む空気に光を当てると光の反射によって散乱光が生じる。ちょうど映画館の映写機やオフィスで用いるプロジェクターの光でホコリがきらきらと輝いて見える現象と同じものだ。この散乱光の量は、粒子状物質の質量濃度に比例することが分かっている。この原理を用いて濃度を測定する仕組みである。

 実際には、吸引ポンプで採気口から一定の吸引量で装置内に空気を引き込み、その中に含まれる粒子状物質の濃度を測る。柴田科学は今回、採気口に取り付けるPM2.5用のサイクロン方式の小型分粒装置を開発した。測定装置の本体は従来の製品を流用しているものの、分粒装置ではPM2.5の定義につながる「粒径2.5μmを超える粒子を50%カットする」という特性を満たしているという。PM2.5だけをより分ける機構を導入することで、PM2.5を測定できるようにしたわけだ。