大気汚染の原因となる微小粒子状物質「PM2.5」の測定値の運用が揺れている。

 環境省は2013年4月19日、PM2.5関連の住民への注意喚起について各都道府県に運用上の留意事項を通達した。1カ所の測定局で1時間だけ観測した濃度(1時間値)で外出自粛などの注意喚起をするのは適当ではないという内容である。

 この通達は、同年2月に開いた「PM2.5に関する専門家会合」が同3月1日に出した報告書に基づくもの。会合で取りまとめた指針に基づいて実施した自治体への調査では、1カ所の測定局の1時間値を住民への注意喚起の判断基準にする例があり、実際に1時間値を基に注意喚起した自治体もあった。ただし、迅速な注意喚起を実施するために、今回の通達後も1時間値で判断する意向を変えていない自治体もあるようだ。

左側の3枚の写真は同倍率で撮影したスギ花粉、黄砂粒子、PM2.5。右端は、PM2.5を高倍率で撮影したもの。(写真提供:埼玉県環境科学国際センター)

 PM2.5は、粒径がおおむね2.5μm以下の固体や液体の微粒子のこと。昨冬に西日本の測定局で通常よりも高い観測値が出たことで大きな関心を呼んだ。中国の大気汚染物質が飛来しているという話題性もあって、「PM2.5騒動」ともいえる社会現象を巻き起こした。(関連記事「PM2.5 ―― 偏西風に乗って大陸から飛来?」)

学校にも広がるPM2.5の測定

 日本電機工業会(JEMA)の統計によれば、2013年3月の空気清浄機の国内出荷台数は、43万6000台と前年同月に比べて56.7%増。2カ月連続の大幅増となった。2012年度の年間出荷台数は過去最高を記録した。もちろん、花粉の飛散増など他の理由もあるが、PM2.5ヘの関心が出荷増の大きな要因の一つになったとの見方は強い。

 実は西日本広域で一時的に観測値は増加したものの、日本の全体的な傾向としてはPM2.5の濃度の年間平均値は減少する方向にある。それでも、健康に関わることだけにPM2.5が増加する冬を過ぎても生活者の高い関心は続いているようだ。

 PM2.5の測定は、従来の自治体が設置した測定局によるものだけではなく、学校など多くの人が集まる身近な公共施設にも広がりつつある。にわかに高まったPM2.5への関心を受けて、自治体や計測器メーカーは測定環境づくりの対応に追われている。

 測定で出てきた数値をどう判断するか。そこで大切なのは、まずは測定値の意味を理解することだ。環境省の通達にある「PM2.5の1時間値」とは何なのか。なぜ、それに基づく注意喚起が適当ではないのか。そもそも、なぜ1時間なのか。その理由は、PM2.5の測定手法に隠れている。PM2.5測定の今と、その技術の課題を追った。