日本でも「オープンデータ」への取り組みがようやく本格化してきた。オープンデータとは、各種組織が収集・保有・管理しているデータを一般に公開すること、あるいは公開されたデータそのものを指す。公開対象として最も代表的なのが、官公庁や地方自治体といった行政が保有するデータで、欧米でオープン化する動きが先行してきた。

 こうしたデータをうまく活用すれば、例えば行政サービスや地域活性化、企業の業務効率向上などに役立つ可能性がある。スマートシティなどの都市計画で高い付加価値を実現するうえでも、オープンデータと、それを使ったデータ解析は重要である。

 2013年3月の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)では、安倍首相からの指示として「IT政策の立て直し」が示された。目指す方向は、各種データの収集(蓄積)、見える化、共有、連携、分析を可能にした「情報資源/データ立国」。データ収集、活用のためのシステムや仕組みづくりを進め、成功モデルの海外輸出を実現していこうというものだ。データの見える化、共有、分析を促すうえで、オープンデータが重要なカギを握ることになる。政府の新たなIT戦略の素案でも、2014年度にも介護、交通などの公共データの民間への開放が挙げられている。

草の根活動から国としての戦略へ

 国内でのオープンデータに対する取り組みは、数年前から草の根的に進められてきた。地方自治体などによるデータ公開や、公開されたデータを利用したアプリケーション開発が市民を中心に進められてきた。

 例えば地方自治体では、福井県鯖江市が比較的早くから、市内のトイレ、各種施設の場所などのデータ公開を進めてきた。同市は「市民主役条例」を施行するなど、市民・行政一体での街づくりを志向している。市民と一体となった街づくりを進めるうえでは、市民と行政の情報共有が欠かせない。また、行政課題をITを使って解決するなどIT活用を進め、「ITを、メガネ、繊維、漆器に次ぐ鯖江第4の産業にしたいとの思いもある」(鯖江市政策経営部情報統計課の牧田 泰一氏)。

 こうしたことを背景に、市が持っているデータを積極的にWebに公開。データ形式のほか、それを利用するためのWeb API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)も策定し、利用しやすい環境を整えた(図1)。

図1 国内では福井県鯖江市が早くからオープンデータに取り組んできた
図1 国内では福井県鯖江市が早くからオープンデータに取り組んできた
左が「データシティ鯖江」のWebページ。右がオープンデータを活用するアプリの例(コミュニティバスの位置情報共有)
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 このような草の根の運動が業界を巻き込むムーブメントへと発展した背景には、2012年6月にIT戦略本部が打ち出した「電子行政オープンデータ戦略」がある。行政の透明性・信頼性向上、行政への国民参加、経済活性化・行政効率化を目指したもので、国を挙げた戦略になったことで関係者の意識がいっそう高まってきた。これを受ける形で、「オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン(OKFJ)」や、産官学共同の「オープンデータ流通推進コンソーシアム」も立ち上がった。

 経済産業省も2013年1月、オープンデータを提供する「Open Data METI」のテストサイトを開設。工業や商業、地質などの統計情報、白書を公開し始めた。

 一方、総務省は、「公共交通」「地盤」「災害」などの分野で活用実験を実施した。例えば、公共交通では、都営バスや鉄道のリアルタイムの運行情報を集め、一元的に利用できるAPIを実装。地図上に表示させる「ドコシル」などをサービスとして検証した。地盤では、国が発注した公共事業の際に取得したボーリングの情報と、各自治体が持つ同情報を共通のAPIで公開する実験を行った。