今回紹介する書籍
題名:中国人的価値観
編者:宇文利
出版社:中国人民大学出版社
出版時期:2012年11月

 「中国人の価値観」はどのように形成されたのか。本書では、それを漢字の成り立ちをもとに説明している。たとえば秦代以前には各国がそれぞれの漢字を使っていた。「馬」という文字一つをとってみても、われわれ現代人から見て同じ文字とは到底思えないほど形が異なっている。それが秦代に6カ国が統一され、「小篆」と言われる字体に統一されたという。本書では、漢字が融合、統一されていることも中国文化の実態を表す事例の一つであるといい、中国文化とは様々な地域の人々の文化が融合、統一されてできたものだとしている。

 では、そのような特徴を持つ文化の下で育まれた価値観はどのような形で表れるのだろうか。本書では、前述の漢字も「中国人の価値観」の表出だとして、様々な漢字の成り立ちの中に込められた意味を説明している。たとえば、国という字の旧字体「國」を思い出していただきたい。中に、口すなわち人口と戈すなわち矛(武器)をもち、くにがまえで国土を表す。そこに中国人にとっての「国」というもののあるべき姿が描かれているのだという。このように、価値観を具現化しているものは文字だけではない。本書では料理、服装、建築、哲学などは皆等しく中国人の価値観を表すものだと述べている。

 また、本書では中国人の価値観について外国人が記した著作をいくつか紹介しているが、これは近代以前のものばかりである。その中で、多くの西洋人が中国の文化や建築などに敬意を表しているが、政治制度(封建的)に関しては批判的であった、とまとめられている。日本人は西洋人による日本人批判を喜んで受け入れる傾向があるが、本書を見る限り、中国人は西洋人から批判されると「誤解されている」「よく分かっていない」と感じるのではないか。これも中国人の価値観の一つの表れであろう。

 本書では、五つの領域に分けて、中国人の価値観について述べている。第1は、死生観。