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ハーネス設計ツール

大規模な製品の内部にある配線を3D設計 メカ設計とエレ設計の連携を支援

  • 木崎 健太郎=日経ものづくり
  • 2013/05/09 19:22

 ユニットやプリント配線基板の間を結んで電力や信号を伝える配線用部品(ハーネス)は、複数の電線(ケーブル)を束ねたもの。これを誰が設計するかは企業によって異なる。ある企業は電気回路を構成する部品であるとして電気(エレ)設計者が設計するし、別の企業では部品との空間の取り合いを扱うため機械(メカ)設計者が担当することもある。どちらの設計者でもなく、生産技術者の役割としている企業もある。

 生産技術者が担当することがあるのは、以前は試作品ができた後で、紐などを用いて現物でハーネスの経路と長さを決めることが多かったためである。ハーネスの経路は平面ではないため、図面からでは長さは正確には分からず、長すぎたり短すぎたりするハーネスになる恐れがある。つまり、ハーネスの設計は開始のタイミングがかなり後にズレてしまうため、設計よりも生産設計の範囲に含めた方が都合の良い場合があった。

 これに対し3D-CADを用いれば、空間内の経路と長さを少ない誤差で決められる。従ってハーネスの設計を前倒しして、メカ設計やエレ設計と並行して作業できる。それを狙って、多くの3D-CADがハーネスや配管の経路をモデリングするための機能や、始終点位置から経路を自動生成する機能を備えるようになっている(一覧表)。

一覧表●3D設計が可能なハーネス設計ツール(3D-CADを含む)
製品名 開発会社 概要 連絡先(URL)
Advanced Routing/HarnessDesign エンブレム SolidWorksに完全に組み込んだ状態で使うツール。ハーネスのタイプと始終点のコネクタを指定すると、最短ルートのハーネスを自動で作成する。ルートはマウス操作で編集できる。ハーネスの一部区間だけを先行して設計可能。 エンブレム
Autodesk Inventor 米Autodesk社 ルールベースで経路を作成する機能がある。「AutoCAD Electrical」などの電気設計ツールから読み込んだfrom-toリストを使用可能。 オートデスク
CATIA - Electrical Wire Routing 2 (EWR) 仏Dassault Systemes社 CATIA V5の経路指定モジュールの情報と、from-toリストからハーネスのモデルを作成する。ユーザー企業の設計基準に従って、経路を最適化する機能がある。 ダッソー・システムズ
CATIA Piping and Tubing Design 仏Dassault Systemes社 CATIA V6の配線、配管設計ツール。ルールに基づいてインテリジェントに部品を配置していく機能を用いて、経路の定義から詳細設計までに適用可能。 ダッソー・システムズ
EPLAN Harness Expert 独EPLAN Software & Service 基本的には2次元ツールだが、3次元設計も可能になっている。配線ダクト内のケーブル占有率に上限がある場合に、設計案がその上限を超えていないかどうかを監視する機能がある。ケーブル加工専用機向けにデータを出力することも可能。 システムメトリックス
ICAD/SX iCAD 回路図や結線情報などからハーネスを自動生成する機能がある。干渉チェックなどにより、周辺の構造部品について検証するのが目的。 富士通
NX Electrical Routing 米Siemens PLM Software社 NXの「Routing Application Architecture」に基づいた配線ツール。ハーネスを自動的に設計、解析する機能を備える。from-toリストの読み込みと書き出し、ハーネス製造用3Dモデルの自動作成機能がある。 シーメンスPLMソフトウェア
PTC Creo Piping and Cabling Extension 米PTC社 フラットケーブルの自動配線、または対話操作による配線などの機能を備える。形状の自動フラット化を含み、製造指示用の文書を作成する機能がある。 PTCジャパン
Solid Edge Wire Harness Design 米Siemens PLM Software社 Solid Edgeでハーネスを作成したり、経路を指定したりできるモジュール。ハーネスが太すぎたり、曲げ半径が小さすぎるなど、設計ルール違反がある場合にリアルタイムで設計者に警告を出す。ハーネス設計中にケーブル切断長さや被覆を除去する長さのレポートを作成する。 シーメンスPLMソフトウェア
SolidWorks Routing 米Dassault Systemes SolidWorks社 構成部品間を接続する配管、チューブ、ハーネスによるパスを、特殊なサブアセンブリとして作成する。SolidWorks Premiumのアドイン。 ソリッドワークス・ジャパン
VPS/Harness デジタルプロセス モデル上で通過点を指定することでハーネスを作成。ハーネス形状を柔軟体として表現しており、動的干渉チェック機能を使用して、可動部の動作や組み立て時/分解時にハーネスのかみ込みが生じないかなどを検証できる。 富士通
デジタルプロセス
エンタープライズハーネス ランドマークテクノロジー 3Dモデル上でハーネスの通過点をクリックしていくことでハーネスの経路を作成できる。既に設定した経路に分岐を加えられる。ハーネスとケーブルの詳細を表示しないため、メモリーの使用量が非常に少なく、ケーブルが1000本以上に及ぶ大規模な回路でも適用できる。 ランドマークテクノロジー
ハーネスデザイナー ランドマークテクノロジー from-toリストを基にハーネスを自動配線する。ルートは通過点の指定などにより編集できる。あらかじめ経路を決め、そこにハーネスを通すという指定も可能。 ランドマークテクノロジー

 さらに、ハーネスを構成するケーブルとハーネスを束ねるバンド、ハーネスを固定するクランプなども含めて、ハーネスを部品として詳細設計可能な、ハーネス設計専用の3Dツールもある()。例えば、「エンタープライズハーネス」「ハーネスデザイナー」〔ランドマークテクノロジー(本社東京)〕、「VPS/Harness」〔デジタルプロセス(本社神奈川県厚木市)〕、「Advanced Routing/HarnessDesign」〔エンブレム(本社神奈川県大和市)〕などだ。

図●ハーネス設計の担当部署とツール
ハーネス設計の担当部門は企業によって異なり、メカ設計、エレ設計、生産技術のどこかが担当している。それに対応するような形で、ツールにもビューワから発展したもの、デジタル・モックアップ・ツールのモジュールであるもの、CADに追加するものなどがあり、運用形態が異なる。
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大規模ハーネスを扱い可能に

 ランドマークテクノロジーのハーネスデザイナーは、もともと3D-CADのモデルを表示するビューワから発展した、詳細なケーブルとハーネスの形状を作成するツールだ。しかし、ケーブル数が増えると処理時間がかかるようになり、1000本に及ぶような大規模な製品を扱う上では限界があった。そこで、ハーネスを経路と太さのみで表現してデータ量と処理時間を削減し、大量のハーネスを扱えるようにしたのがエンタープライズハーネスである

* ケーブル700本から成るハーネスの場合、ハーネスデザイナーに比べて処理時間は約1/5、データ容量は1/30程度になった。

 ユーザーは、半数以上がエレ設計者だという。回路設計の結果、ケーブルで結ぶべきコネクタ端子のペアが分かるため、これを「from-toリスト」として回路設計ツールから書き出す。このリストと、メカ設計の3Dモデルをエンタープライズハーネスに読み込み、所定の接続関係を満たすハーネスの3D形状を決めることができる。「元が操作の単純なビューワであるため、3D-CADに慣れていないエレ設計者にとっても敷居が低い」(ランドマークテクノロジー)という。

 エンタープライズハーネスを製品化した2008年当時、ハーネスを構成するケーブルの情報も扱っているにもかかわらず、ユーザーからは「お絵かきツール」と言われたという。そこで最近の機能強化では、ハーネスを被覆するチューブ(被覆)、ハーネスを束ねるバンド、ハーネスを固定するクランプといったハーネスの構成要素の情報を3Dデータに定義し、ハーネスの詳細設計を可能にした。さらに、ハーネスのたるみを表現可能にして、ドアなどの可動部にかみ込まれないかなどを検証できる。ただし、生産指示用の展開図などの図面作成は、次の課題になるという。

ハーネスの動きや変形を表現

 富士通とデジタルプロセスのデジタル・モックアップ(DMU)・ツール「VPS」には、ハーネスの形状を定義してシミュレーションできるモジュール「VPS/Harness」がある。複写機やサーバなど、ハーネスを含んで数万点を超える部品で構成される製品の組立工程や、完成後の機構動作を検証できる。

 以前からVPSには、富士通研究所(本社川崎市)などと共同開発した柔軟物モデリング技術を用い、長いハーネスが重力などでたるんだ様子を表現できるようにしていた。このたるみが組立作業や機構動作にとって邪魔にならないかを検証できる。2011年には柔軟物の変形を動的にシミュレーションする技術も追加し、 アニメーションによって作業や動作の状況を見られるようにした。

 VPS/Harnessは、パソコンやサーバなどによく使われる、線を平らに並べて一体化したフラットケーブルの設計にも対応している。フラットケーブルの幅と線の本数を定義することで作成できる。経路途中での折り曲げ位置や方向、折り曲げはフラットケーブルの一方の面から見て山折りか谷折りか、などを指定したり、変更したりできる。  DMUツールであるため、CADから機構部分の3Dモデルを読み込んで作業する。経路の決定と同時に組立性の検証が可能なため、生産技術部門がハーネスの設計を担当する場合に向く。

 デジタルプロセスは、3D-CAD「ICAD/SX」にもハーネスの3D経路を作成する機能を持たせている。電気部品の配置と編集、経路長さの測定ができる。エレ設計段階でハーネスを引き回すための空間を確保したり、ハーネスの概略を設計するのには、CADのハーネス設計機能の方が向くと考えられる。

確定部分から経路を決定

 3D-CADにもfrom-toリストを読み込むなどして3D経路を発生させる機能がある。例えば、「SolidWorks」(米Dassault Systemes SoidWorks社)には経路を作成するアドインモジュール「SolidWorks Routing」がある。エンブレムはこれとは別に、さまざまなハーネス設計向けの機能を加えたAdvanced Routing/HarnessDesignを開発した。メカ設計者がハーネス設計を手掛ける場合のほか、生産技術者がSolidWorks自体を操作できる場合にも適用できる。進行中のメカ設計のCADデータをそのまま使用してハーネスの設計/検討ができる。

 このメリットをより生かせるように、Advanced Routing/HarnessDesignの最新版では、ハーネスの一部区間だけを設計できる機能を加えた。メカ設計の進行度合いによって、ほぼ確定した部分とそうでない部分がある時、両方にまたがるハーネスは、通常では設計に着手することが難しい。これを、ハーネスの区間を分けて、確定している部分だけ先に経路やクランプ位置を決定できる。同ツールでは、動作スピードを上げるための簡略表示と、詳細に表示する機能の両方があるが、これを同一ハーネスの区間ごとに切り替えて適用することも可能だ。

 途中区間の端には「セクションピース」と呼ぶ、仮のコネクタのような部品を定義する。全区間のハーネス設計が終わったら、合計の長さを求めたり、セクションピースを取り除いて一体化したりできる。データ構造上は、区間ごとのハーネスがサブアセンブリとして全区間のアセンブリを構成しており、一体化するとアセンブリの階層構造が1つ減る。

 ハーネスを使う製品は極めて多いが、メカ設計以降の設計リードタイムを短縮するといった観点では、意外に盲点になっている。金型と異なり、3Dデータをそのままハーネス製作の自動化に使うこともできない。であればこそ、ハーネス設計はメカ設計から間を置かずに始めて、いかに速く作業を完了するかが勝負になる。

この記事のURL: http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130424/278611/